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『楽しく、走る。』

走るというのは、孤独なことだと思っていました。
 
こんにちは、新潮社の宮川と申します。
突然ですが、編集者の私にとって「走る」は、これまですべて本の中の出来事でした。アラン・シリトーの『長距離走者の孤独』、トム・マクナブの『遥かなるセントラルパーク』、あるいは村上春樹の『走ることについて語るときに僕の語ること』。これらのランニングについて書かれた文章は、なんていうか、ものすごく「ひとりぼっち」だったのです。だから、ずっと私もこう思っていました。走ることは孤独なことであると。昨年、2014年11月、平井理央とNYを走るまでは。
 
このたび、新潮社から発売されました平井理央さん初の書籍『楽しく、走る。』で、平井さんと約半年間一緒に走らせていただきました。そして、この本を通して、箭内道彦さんと初めてお会いすることができたのです。
     
『楽しく、走る。』は、平井さんがNYCM(ニューヨークシティマラソン)を目指した記録です。マラソンを目指すというだけで、ストイックなものを思い浮かべた方は、是非この本のカバーを見てください。
キャッチコピーは、「無理しない。ごほうびを作る。だれかと走る。」そして「自称“ズボラな”平井理央の“走り方”」。ビビッドな赤とピンクのランニングウェアに身をつつみ、さくら舞い散る青山の路上で、とびきりな笑顔の平井理央。なんだかすごく、楽しそう。
そう、この本はタイトルに偽りなく、とにかく「楽しく」ということを全力で追求したランニングスタイル・ブックなのです。辛いとか、孤独とか、1行も出てきません。こうしなきゃいけない、なんてことも1つも登場しません。なんだかごめんなさいと(誰にだか分からないけど)謝りたくなってしまいます。いや、でも、胸を張って断言します。こんなに「楽しく走った」マラソンの記録は、世界に1冊しかないはずだと。
 
『楽しく、走る。』には、3つのランニング要素があります。それは、街ラン、旅ラン、友ラン、です。平井さんは普段の練習には、見慣れた東京の街中を走りました。ランニングウェアでキメるというより、Tシャツに短パンやスパッツというラフなスタイルで、走ったあとにはよく朝ごはんを食べにいきました。寄り道をしたり、そのままお茶をしたり。NYではこういったカジュアルな走り方が主流なのだといいます。そしてただ走るだけでなく、海外のマラソン大会をゴールに設定しました。走るというイベントを旅に組み込むと、その土地との距離感がぐっと縮まります。この本は、これまであまりなかったNYCMのリアルなルポとしても、楽しんでいただけるはずです。そして平井さんは、走ると決めたとき、私を誘ってくれました。実は平井さんとは学生時代からの友人なのですが、2人で走るとなると、必然的に「話せる」速さで走ることになります。このスピード感が、無理せず街を楽しみながら走るのにピッタリ。平井さんと走った半年間に、これまで自分が「走る」に抱いていた、辛くて、ストイックで、「ひとりぼっち」といった要素は、どこにもありませんでした。
 
10年間彼女を知るものとして、私は平井理央を「ガッツのある女」だとずっと思ってきました。一度はじめたら弱音も悪口も言わない。やると決めたことはやり通す。でも、彼女の一番いいところは、「頑張らない」ところなのです。42キロも走った人が頑張ってないわけないじゃないか、と思われるでしょうが、彼女には、一生懸命さの中にも、不思議な抜け感があるのです。その正体が何なのか長らく謎だったのですが、今回本のためにロングインタビューさせてもらい、彼女の言葉ですべてが腑に落ちました。
「この状況っていうのは自分で納得してやっているものだから、うまくいかないことがあっても人のせいにはしないし、だからこそ絶対楽しまなきゃっていう気持ちはある」。
私が学生時代から感じていた平井理央のガッツは、「絶対に楽しんでやる」という気持ちにほかならなかったのですね。そう、彼女は、楽しむ人なのです。この本のコンセプトは、結果的に、平井さん自身の生き方にも重なっていました。
 
そして、カバーの写真を撮影してくださったのが、箭内道彦さんです。この本にはニューヨークと東京の2バージョン、グラビアが収録されているのですが、箭内さんには「東京で走る平井理央」を撮っていただきました。
早朝の撮影ロケでお会いした箭内さんは、やっぱり、風のように自然体、なのに、そこはかとないビートを感じる方でした。目黒川沿い、原宿の路地裏、青山墓地。
カメラを片手に、誰もいない朝の246を横切る、その背中に、もうひとりの「楽しむ人」のカッコよさを見ました。
というわけで、箭内道彦さんが撮った「トーキョーを走る」平井理央、超、いい感じです。そしてなんと、箭内さんがこの本のために寄せてくださった文章「走れ」も収録させていただいております。
                   
箭内さん、ありがとうございました。
この本を通して、東京にも「楽しく、走る。」人がもっともっと、あらわれることを願っています。
 
 
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