Archive for 8月, 2007

中国雑誌事情・後編

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■中国アート事情

幅:これは完全に絵なんですよ。絵なんですけれど、リアリズムがすごい。ちょっと見ただけだと写真みたいです。モチーフ云々というよりは描ききる技術力がすごいですよね。
ちょっと話それちゃうんですけど、こういう面白いものが中国にはあるんですよ。
中国に行ったときに面白かったのが、本屋さんに行くと、絵の技法書、デッサンとか、ああいうもののコーナーがすごく大きいんですよ。日本だと、絵のコーナーには作品集とかの方が多くて、技法書なんかは一割にも満たないくらいの品揃えなんですが、中国は技法書が7割くらい。みんな絵の勉強をしましょう!という感じです。それで結果的にこういう本が出てきたりしてる。中国のアートは今、ものすごく景気がいいので、みんな絵を描いて一攫千金!みたいなところがあるみたいです。鑑賞するというよりも自分で描くものだというマインドのようです。

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■中国はエディトリアル・デザイン大国でした

幅:中国のひとたちは、雑誌を作るということにかけてはもともと非常にセンスがあるんですね。
実際にはべたべたなファッション誌もあるんですが、カルチャー誌の流れもきちんとあって、かっこいいエディトリアルデザインもしっかりあるし、30年前にはこういうものが普通に流通してたりという系譜もある。国家的なシステムがどーんと変わったこともあるんでしょうが、そこで断層があるわけでなく、リニアに繋がっている。雑誌というものを作るセンスは通底してますね。
扱ってるコンテンツもよく調べてあるわけですよ。たとえば日本だと「Casa BRUTUS」がピックアップしそうなコンテンツも、さらに深い部分まで掘り下げていたりして面白い。

Q:ビジュアルの発達というのは、広い中国で言語が少しづつ違うからというのもあるからなんでしょうか。

幅:そうですね、言葉で伝えるより絵で伝えたほうが早いと思ってる部分はあるかもしれませんね。そういう意味でも、まさに中国はエディトリアル・デザイン大国でした、と言えるのかもしれないですね。

幅:これはフリーペーパーですね。結構フリーペーパーはたくさんあって、街のスタンドに置いてあるんですが、中身はガイド的なものが多いです。

Q:これも街のスタンドに置いてあるんですか?

幅:そうですね。これは「Time Out」。

Q:「Time Out」もフリーペーパーなんですか?

幅:そうです。このへんもフリーペーパーですね。きらきらな感じで。
こんなにお金かけちゃって大丈夫?みたいな余計な心配をしてしまうほどの充実度です。

Q:紙もいいものを使っていて、とても無料とは思えませんね。

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■飽くなき作りこみ

幅:もう一つ、おもしろかったのが、雑誌じゃないんですが、版形が全部同じのこの本なんです。情報があまり入らなかった時代に、アミューズメントが欲しかったんでしょうね。日本のテレビ番組の「一休さん」の場面をそのまま撮影して、セリフをつけて本にしてる。これは農村部とかも含め、いろんなところにいきわたっていて、発行部数が何十万部とかすごいんですよ。これは35万部ですね。
これは007です。「ロシアより愛を込めて」とか、これは「賭場」って書いてあるんで、おそらく「カジノロワイヤル」ですかね。これは場面写ではなくて絵ですね。ここまでして読みたかったんだな、と感慨深い気持ちになります。1コマ1コマ手で描いてます。ものすごい手間がかかってますよね。

Q:中国ではフォトショップが出る前からアナログでやってたんですね。

幅:こういうのを見てると、忍耐強さを感じますね。自分がやりたいと思ったらやりきっちゃうんですよ。普通に考えたらものすごい大変じゃないですか。そういうすごさはありますね。

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■ビジネスというよりは情報伝達手段だった

幅:これは切手雑誌ですね。これもグラフィックが非常にうまい。なんで切手の雑誌でこんなに?という感じはあるんですが。笑。
これは旅行雑誌。40年間を経て、この雑誌がこうなりました。

Q:同じ出版社なんですか?

幅:当時は国が出していたんですが、今は民営化されていますね。ですが流れは一緒だと聞きました。
民営化はされた後も、国が長い間面倒を見ていた雑誌は続いてるものが多いらしいです。国営の当時は出版ビジネスというよりは、単純に情報伝達手段だったんでしょうが、それは逆に今みたいに、広告とらなきゃ!とかそういうプレッシャーがないですよね。クオリティに専念するような環境があったんだな、と思いますね。

Q:中国は本当に奥が深いですね。

幅:今だと、大学の出版部の豪華な設えの本などが注目に値するかもしれませんね。
ブッ飛んだものを大学の出版部が作っているというのは面白いですね。一番最先端なことを大学がやっているというのは、健康的な状況だと思います。

中国雑誌事情・前編

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■雑誌の最先端は中国にあった!?

Q:今回は中国の雑誌事情をお話していただきます。どういう特徴があるんでしょうか?

幅:取材で中国を訪れる機会があって、中国で発行されているいろんな雑誌を見たり、本屋さんをチェックしてみたりしたときに、これはすごい!と思いました。本当に元気が良くて、あっと驚くようなオリジナリティに溢れていたんです。
たとえば、この雑誌は基本的にカルチャー誌なんですけど、内容は政治のネタもあれば、ビジネスや車の特集もあるんですよ。他の雑誌を見ても、総合誌みたいなものが多い感じがしました。

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■とらわれてない発想

Q:これはすごいですね。中身もクリエイティブもおもしろい。この本でいくらくらいなんですか?

幅:たぶん600円くらいです。中国の雑誌にしては高い方ですね。これとかだと20元ですね。表紙がキラキラしているものが多いかもしれないですね。光りもの好きなのかな?

Q:それだけ印刷の技術が発達してるってことでもありますよね。

幅:あと、基本的に安いっていうのもあるでしょうね。
だからというわけではないけれど、いろんなしがらみに囚われていない感じがしますね。
これは日本の中島英樹さんの作品集なんですよ。大連工科大学が作っています。こういう本は通常和綴じにはしないですよね。この厚さ、1000ページ以上あるんです。なのに平気で和綴じしちゃう。こういうところにも、旧来の枠組みにとらわれてない感じがすごくします。

これも実はすごく面白くて、刺繍を見てください。あまり普通は装丁に刺繍を使ったりしないですよね。これはグラフィックを中心とした広告集なんですけど、刺繍糸も4種類くらい使い分けていて、そういう手間とかを顧みてない感じがすごくいい。
あきらかに見たことのないような設えを平気でやっているのがスゴイな、と。

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■常識はずれ?

幅:中国のひとたちは、「本作り」「雑誌作り」という既存の枠組みを外れてしまって、えい、作りたい!刺繍だ!と思うとやってしまう。
これも中国人アーティストの作品集なんです。ページ数はすごく少ないんですが、この中に一体何種類の紙を使っているんだ!?というくらいたくさんの紙を使ってる。こういう変な手間暇のかけ方が実におもしろい。
これも「BRUTUS」で紹介したんですが、挟み込みとかが面白い。街の写真集なんですが、子どもの落書きみたいなものを載せてみたり、こういうのを1ページごとに挟み込んでるんです。これはお祭りの写真ですね。台割とかの概念が、日本の僕らから見ると本当に自由ですよね。やりたいと思ったら、それをやって、すごく天然な気がする。

Q:すごく自由な中国人。

幅:脳の中がスパークしていて、すごくフリーマインドなんでしょうね。

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■紙は使い分けて当たり前

■紙は使い分けて当たり前

幅:中国の本屋さんは立ち読み全然OKなんです。立ち読みどころか座り読みも多いですし、もっとフトドキなやつらは床に座って弁当とか食べてる。一心不乱に勉強してる人もいます。本を写したりとか(笑)。ただおしゃべりしに来てる人も多い。いろんな人がいるので、駅のターミナルみたいな状態になってましたね。

幅:この本も特徴的なのが紙の使い方で、塗光紙使ってる部分もあれば、ザラ紙のところもあったりしています。写真のところでまた紙が変わっていたりと、コンテンツに応じて紙を使い分けている。広告は写真再現性を優先したり、テキストの方はやわらかい感じとか、とにかくこまやかなんです。紙が安いらしいんですが、こういう使い方はおもしろいですね。
この本とか、幅は真っ白なんですけど、こういうものがくっついている。こういうアイディアも面白いですよね。これは創刊したばかりのデザイン雑誌です。当然のように紙も、ページごとに違います。

Q:日本の雑誌でも、後ろと前は写真の紙で中はザラ紙、といったように、二種類までならありますよね。

幅:彼らは使い分けるのがきっと好きなんでしょうね。もうそれがスタンダード、みたいに考えているのかもしれません。

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■漢字も写真もかっこいい

幅:漢字のかっこよさでいえば、昔の雑誌は相当なかっこいいものがありますね。日本も戦時中の「FRONT」とかはそういうところがある。
彼らはずっと共産主義はステキだよ、という啓蒙をつい最近までやっていたわけで、そういう時代である60年代のものがかっこいい。

Q:ちょっと日本の雑誌の「太陽」っぽいですね。

幅:そうかもしれませんね。
これは「ルーマニア」という雑誌で、同じ共産圏だったルーマニアのすてきな生活を紹介するものです。こういうフォントとか色の入れ方とかが独特ですね。なんか妙にイラストとかもかっこよく見えます。ちょっと見たことが無い感じがすごくあります。
フォントがアルファベットじゃないのは日本も同じなんですが、漢字のフォントって日本ではここまでいじられてないと思います。現代のグラフィックデザインの方なんか、すごくいいヒントになるような使い方が多いですよね。

これは中国の経済状態をプロパガンダするために作られたものです。写真の一枚使いが特徴的ですね。輝かしい感じがすごく出てる。高炉の機械とかがかっこいい。

Q:涙出るくらいかっこいいですね。写真の色味とか。

動画でみる(3分30秒)

(後編へつづく)

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