Archive for 9月, 2007

ワンテーマ・マガジン!後編

■「Big magazine」、「月刊キャベツ」

次は「Big magazine」です。これはずっと続いていて有名な雑誌なんですが、今回はヘミングウェイ特集です。ヘミングウェイというキーワードをもってどこまで広げられるか、というところですね。たとえばコスプレがあったり、ゆかりの地を訪ねたフォト・シューティングがあったり。これはビジュアルがメインな雑誌ではあるんですが、ヘミングウェイコスプレのファッションページってなかなかしゃれてると思います。これも毎回一冊まるごとワンテーマですね。ワンテーマということでは、この雑誌が先駆けなのかもしれない。今、この号で63号で、たしか年4回出ているのでずいぶん長いですよね。

一方日本なんですが、この雑誌もう見ましたか?「月刊キャベツ」という雑誌です。僕も少し編集に関わったんですが、「旬がまるごとマザーフードマガジン」ということで、毎回特集が変わるんです。次の特集がマグロ、トマトと続きます。

Q:キャベツというのが雑誌の名前かと思いました。

幅:実際、キャベツというのがほぼ雑誌の名前ですね。
本当は雑誌の名前を毎回変えたかったんですけど、手続き上できなかった。
この号では、十文字美信さんがキャベツのグラビアを撮っていたりします。キャベツを一枚一枚はがしていくと小さい葉っぱになっているところをじっくり撮っている。
他にもキャベツにまつわる記事がたくさんあります。荒木緑さんにキャベツでライトを作ってもらって、ホンマタカシさんに写真を撮ってもらいました。くだらないといえばくだらないんですけどね(笑)。シュークリームのシューはキャベツがオリジナルなので、シュークリームの特集もあります。一応料理本らしくレシピも取り上げたり、キャベツの廃棄事件を取り上げたり。建築家に建築的視点からキャベツを語ってもらったり。すごくまじめに語ってもらいました(笑)。他にはセルジュ・ゲンズブールの「くたばれキャベツ野郎」というアルバムも取り上げました。

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■「酒とつまみ」

幅:次は「酒とつまみ」です。これは本当にお酒とつまみに関するいろいろな事象を扱っています。でも通常考えるような、このお酒がうまいとかつまみの作り方とかではなく、たとえば「飲み残しのビール、次の日常温でどのビールがイチバン美味しいままか」という記事があったりして、なんだかちょっと変わっています(笑)。お酒とつまみに対するコンテンツの、さらに隙間みたいなところを埋めている。
最高にくだらない特集といえば、イカグラスというイカを凍らせてグラスにして酒を飲むというものですね。飲むと少し縮む、らしいです(笑)。ソフト裂きイカがつまみであるから、イカをグラスにして酒を飲めば効率がいいんじゃないか、というコンセプトらしい(笑)。日本酒から麦焼酎、黒糖ワインという風にお酒も変えたり。オバカな企画ですが面白い。ちょっとタモリ倶楽部的な方向に走りつつ、酒とつまみをどこまでも深くちょっとひねくれたアイディアで取り上げていくのがすごく好きですね。
読者の投稿もすごくリアルです。飲んだくれ川柳とか。

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■「TOKION」、「ワンダー・ジャパン」

幅:最近ワンテーマっぽく変わってきたよね、というのが「TOKION」です。佐藤可士和さんの特集をやって売れたからなのかもしれないですが、毎回「人」を立ててます。宇川直宏さんの特集も、宇川さんを取り巻く人から見た人物像を語っていたりして面白いです。最近の雑誌の中では当たっている雑誌ですね。資料性が高いのもいいのかもしれませんね。

幅:次は案外知られてないかもしれないんですが、「ワンダー・ジャパン」という雑誌です。都築響一イズムの正統的継承者という感じですね。日本の風景の中で、ちょっとこれおかしくない?というところをひたすら撮っている。昔は年に二回とかいい加減な出方だったんですけど、今は季刊誌です。タモリ倶楽部的なところがすごくある。
少し前に出た軍艦島特集がすごかったですね。もともと廃墟とかをルポタージュしたところから始まっていて、ちょっとずれてたり、ゆがんでたりするような日本の風景を集めています。今、工場萌えみたいなムーブメントがありますけど、そういうブームの先駆け的存在です。
今、この雑誌の編集者たちはダムを流行らせようとしてるんじゃないかと思うんですけど(笑)、ダムの特集も面白いですね。なんかそういう独特なチャレンジ精神があります。毎号毎号の特色を変えていかないときついかもしれないけど、なかなかこの雑誌は売れてきているらしいです。動きとしては面白い感じですよね。

動画でみる(2分18秒)

■「東京人」

幅:最後に、究極のワンテーママガジンで、でもあまり手に取ることがないかもしれない雑誌ということで「東京人」です。
今回は「東京の橋100選」ということで、一番最初にピックアップされているのが、皇居の橋です。正門石橋ですね。この雑誌は、ワンテーマ・マガジンという話をしたときに、気づかないくらい自然にやってるんですよね。古川英夫さんが神田川クルーズをして、川から見る東京をレポートしていたり。もともと東京というワンテーマがあるところで、橋を取り上げて歴史的な部分を広げたりしているところがスマートで面白い雑誌ですよね。東京に住んでいる人は、知っている気がするようなテーマが多いんですが、実際に手に取って見ると実はディープで面白いんですよ。橋の構造まで解説していたりして。こういうものも忘れないでほしいですね。

Q:「東京人」は資料性がすごく高い雑誌ですよね。

幅:前にも話しましたけど、「昨日ミラノコレクションでこんな洋服がありました」というようなことは、これからはインターネットに任せていくしかないわけで、揺るぎの無い要素をピックアップして加工して、というところに雑誌の未来はあるのかな、と思います。その加工能力、編集能力が問われていく中で、わかりやすく読者に伝えていくというところが、ワンテーマ雑誌というジャンルに可能性があるのかなと思います。たとえばキャベツからスタートしてどこまでも広がっていく、そういうことにおもしろさというか可能性を感じます。
昔のワンテーマ・マガジンがあったり、ティボー・カルマンの雑誌みたいなものがあったりした上での話だったりするので、とくに編集者の人にはものすごく読んで欲しいです。
読者の方にもそういう視点で雑誌を読んでもらえたりするとうれしいなと思います。

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ワンテーマ・マガジン!前編


幅:今日はワンテーマ・マガジンに雑誌の未来が見えるかも!?ということでお話していきます。

■「おとなの絵本」

幅:実はワンテーママガジンというのはずっと昔からあったんですね。
もっとも極端で面白い例として持ってきたのが、「おとなの絵本」です。これはツムラ順天堂というバスクリンとかを作っている会社が出していたもので、売り物ではなかったんですね。
もともとはツムラ順天堂のプロモーションのための雑誌なんですけど、そんなにプロモーションっぽくもなくて、本当に自由闊達に作っているんです。いきなりバスクリンが出てくる、というわけではない。
たとえばこの号は、「緑」という特集で、緑を切り口としていろいろとアイディアを膨らませた記事を展開しています。緑の竹という詩があったり、バーバラ寺岡さんが「グリーンティと私」というエッセイを書いていたり、「緑を食べる」ということで富岡多恵子さんが軽いコラムを書いていたりします。緑に関するルポタージュ記事もありますね。
アートの紹介ページでは、たとえばマネの「草上の食事」という絵を、緑ということで取り上げています。別の号には「洗濯」という特集があるんですけど、それはゴッホの「アルルの跳ね橋」という、川べりで女の人が洗濯している絵が取り上げられていたりするんです。
アンケートのコーナーではいろいろな人、グラフィックデザイナーからシナリオライターから詩人という人たちまでが回答しています。すごいんですよ、かべくらゆうさくさんや剣持勇さん、澁澤龍彦さんなんかが緑について語っていたりするんです。
こちらの特集は「Q」で、なぜアルファベットの「Q」なのかはよくわからないんですけど(笑)、巻頭ではオバQとキューピーが仮想対話しているという記事があります。毎回付いているものなんですが、「Q30年史」という歴史年表もありますね。「ここが急(Q)所」というテーマで瀬戸内寂聴さんが対談をやっていたり、「球(Q)根栽培」について取り上げていたり、おもしろいですよね。どの記事も発想が自由すぎるんですが、ちゃんとした「Q」に対するドキュメンタリーみたいなものもある。バスクリンというリラクゼーション効果をもたらす商品とゆるーく絡めながらも、球ということでパチンコからボウリングから取り上げていたり、森茉莉さんのエッセイがあったり。
ひとつのテーマをもとに、歴史的なこともあれば、科学的なこと、文化的なことも取り上げていて、作っている人たちのプライベートもあったりします。

幅:要は、特集のテーマである「Q」ならなんでもいい。「緑」ならなんでもいい、ということなんですよね。
一応ツムラの製品がベースにはなってるんですけど、いかに自由に広げていけるかというところにワンテーママガジンらしい面白さがありますね。
これは発行が1960年代くらいです。ここにあるのは68年8月号と68年12月号ですが、つまり約40年前の雑誌なのに全然古びてないんですよね。

幅:僕がこの雑誌を見て思ったのが、ものすごく保有欲をあおられるという気がしたんです。だからこんなに40年間大切にされていたり、当時に比べて高い値段で取引されていたりするんですよね。「緑」みたいな一つのワンテーマをいろいろ広げて、でも一流どころの人が書いたり対談したりしていてやっていくことで保有欲が増していく、というところに雑誌の未来の姿が少し見えるのかな、と思いました。

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■「サントリー天国」

幅:同じような流れとして、サントリーの「サントリー天国」という雑誌です。これはすごく有名な雑誌です。
この号はめがね特集で、めがねのグラスと飲むグラスをかけてるんですよね。視力表みたいなものがあったりして面白い。サントリーは昔から雑誌の中での紙の使い分けをすごく気をつけてやっていて、こっちはコンテンツ重視、こっちはビジュアル重視という風にやっている。いろいろな有名どころの人がエッセイを書いていたり。大人な感じがする雑誌ですね。
めがねをかけてハンサムになろうというコーナーでは、いろいろな著名人に勝手にめがねをかけさせていたりします(笑)。

幅:なんかこういうワンテーマの昔の雑誌というのは、一つのよりどころになる気がします。今でも自分たちに近しいテーマというか、今見てもわかるものがこうして残っている。長い時代を経ても「Q」という文字がなくなることはないので、これからも永遠に読みつがれていくこともできる。生き永らえていく感じがすごくありますよね。

動画でみる(1分57秒)

■ティボー・カルマン

幅:一方海外でもこういうことをやっている人はいるんですが、僕がキング・オブ・ワンテーマだと思うのは、ティボー・カルマンというアートディレクターです。トーキングヘッズの「リメイン・ライト」とかのジャケットワークとかを手がけていた人なんですけど、この方は「COLORS」というベネトンが出している雑誌の1号目から13号目までのアートディレクター兼編集長をやっていた人なんです。僕、実はこの人ものすごく大好きで、一番好きな編集者といってもいいくらいです。
これは雑誌じゃなくて本なんですけど、これはヴィトラ・デザイン・ミュージアムという世界最大のチェアーコレクションを誇るところのために作った広報本なんです。でも、単なる広報本を超えて、人が座るということはなんなのかということを追求しているおもしろい本です。基本的には椅子をフィーチャーした本なんです。座るという一つのテーマでどこまででも広げていくところがおもしろい。
この人はなにがすごいって、圧倒的な写真や情報のチョイスにあると思うんです。「おとなの絵本」とか「サントリー天国」は、どちらかというとテキストでコンセプトを伝えているのに対して、これは誰が見てもわかる、言語を超えたビジュアルイメージで伝えようとしているところがすごいと思います。一応自分のところの商品やイームズの商品もあるし、ページが進むにつれてヴィトラっぽくになってくるんですけど、それがいやらしくない扱い方。商品を売ろうということではあるんだけど、人類の生活において椅子というのがどういう位置を占めているのかを伝えている。そういうところがものすごくしっかり描かれているんですよね。
実は90年代にエイズですでに亡くなっているんですけど、ティボー・カルマンという名前はぜひ覚えておいてほしいです。

動画でみる(3分29秒)

■「COLORS」

幅:で、そのカルマンが作っていた雑誌が、ベネトンから出ている「COLORS」です。今でも続いていて、ファブリカが作っています。僕がすばらしいと思うのは、やっぱり彼がやっていた1号目から13号目ですね。ワンテーマで、世界中のいろんなところからビジュアルをベースに集めてきた情報をもって、なんとなく一冊がメッセージになっているところがすばらしいと思っています。有名なオリベイラ・トスカニーニはプロデュースの方で、ティボー・カルマンが実質の制作ですね。トスカニーニは今ではよく知られていますが、ぜひぜひティボーも知ってほしいです。

幅:その「COLORS」は一時期日本語版も出ていたので、今回はそれを持ってきました。
たとえば日本版の創刊号は「タイム」がテーマだったんですけど、一般相対性理論みたいな難しいような話もありつつ、避妊薬のパッケージから曜日がわかるとか、脳みそがどう時間を司っているか、などを取り上げています。「時間」ということをいかに広げていくか、というのが面白いですね。きれいなもの汚いもの、世の中のヒエラルキーにおいて上にあるもの下にあるもの、すべてを等価に扱っていて、一つのテーマにまとめている。そして一冊としてはなんらかのメッセージになっている。

幅:こちらはおもちゃがテーマです。これもただおもちゃの羅列ではなく、おもちゃが我々の生活になにをもたらしているのか、どういう役割を果たしているのかということにすごく踏み込んで伝えているけど、決して言い切ってしまわない。言い切ってしまうとちょっと政治っぽくなってきてしまうんだけど、あえて言い切らないでいるカルチャー寸止め感的な立場がおもしろい。この辺の編集能力というかバランス感覚が優れていた雑誌だと思います。
今の「COLORS」はもっとテーマが抽象的になっているような気がして、解釈が抽象的になっているので、昔のものの方がおもしろいと思います。

動画でみる(4分23秒)

■「pin-up」

幅:さて、雑誌の未来をワンテーママガジンの中に見てみましょう、ということで、じゃあ今はどういう雑誌があるのか、というのがこちらです。
雑誌としてはよくできてるなーと思っている「pin-up」という雑誌です。表紙を見ただけでは、「何の雑誌?」と思ってしまうのですが、実はワンテーマとしては建築の雑誌です。ただタイトルからもわかるように、通常の建築雑誌ではなくて、もともと「ファンタスティック・マン」というゲイ雑誌があって、ものすごいお洒落なゲイ・ファッションを扱っていたものなのですが、そこの寄稿編集者だった方たちが作ったものです。ぱらぱらとめくっていくと、たとえば昔の建築の本を紹介したり、ファッションのページがあったりして、あまり建築建築していない。ファッションページも、ただのファッションではなくて、有名な建築家のコスプレのファッションですね。
ゲイの雑誌である「ファンタスティック・マン」出身の編集者が作ってるなー、というのがわかりやすい特集もあります。たとえば世界中のタワーを紹介している特集です。フリーダムタワーや上海のタワー、平壌タワーを男性器に模したフォトで構成しています。いかにもゲイっぽい(笑)。
でも、一応ちゃんとした建築家のインタビューもあったり。リック・オーウェンズというファッションデザイナーが作った家具を特集していたり。

Q:ゲイ的視点から見た建築雑誌ということですか?

幅:ゲイというわけではなく、建築というものをあらゆる多方面な視点から埋めていくというか、ファッションだったり写真だったりそういうもので語っていくという雑誌ですね。
写真の使い方もなかなか豪快で面白い。プロダクトの紹介を、あえて写真ではなくイラストでやったり。ものすごく多方向に広がっている。

Q:今でこそ、こういう特集をする雑誌が出てきてますが、これは先駆けなんですか?

幅:先駆けであり、かつ、もっともよくできている。頑張ってやりすぎているわけではない感じもすばらしい。
雑誌のサブタイトルとして「architectual entertainment magazine」という名前がついているんですが、建築の専門の雑誌ではなく、建築というものを一つのキーにしてあらゆる要素を集めてきました、という面白さがあると思います。
まだ二号目までしか出てないんですけど、二号目では大阪万博やSANAAを取り上げています。妹島和世さんの事務所である「SANAA」をホンマタカシさんが撮っているんです。
通常建築の雑誌のページに載る写真ってきれいなものなんですけど、これは全然違って、その辺にほったらかされている発砲スチロールを撮ってみたり、プロセスを映しています。こういうの普通は撮らないですよね。こんな雑然とした事務所なんだ、みたいな(笑)。
建築そのものではなく、プロセスだったり広がっていくいろいろなところを魅せるというコンセプトでやっている。ものすごく昔のものもあれば、最新のものもあり、インテリアやアートの要素もある。ものすごく洒落てるんですよね。これって雑誌として新しいな、と感心しています。平然と並列してる感じが強いと思うんです。

Q:どれくらいの期間で出てるんですか?

幅:これは相当適当に出してるらしいんですが(笑)、一応年に三回くらいということらしいです。
なんかこれを見たときの「おー」という感じが、「おとなの絵本」を見たときの感動に近いと思います。そういうところに雑誌の新しい未来というとちょっと言いすぎかもしれないんですが、なにか力を感じますね。

動画でみる(7分10秒)

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