2007/9/25 火曜日
ワンテーマ・マガジン!後編
■「Big magazine」、「月刊キャベツ」
次は「Big magazine」です。これはずっと続いていて有名な雑誌なんですが、今回はヘミングウェイ特集です。ヘミングウェイというキーワードをもってどこまで広げられるか、というところですね。たとえばコスプレがあったり、ゆかりの地を訪ねたフォト・シューティングがあったり。これはビジュアルがメインな雑誌ではあるんですが、ヘミングウェイコスプレのファッションページってなかなかしゃれてると思います。これも毎回一冊まるごとワンテーマですね。ワンテーマということでは、この雑誌が先駆けなのかもしれない。今、この号で63号で、たしか年4回出ているのでずいぶん長いですよね。
一方日本なんですが、この雑誌もう見ましたか?「月刊キャベツ」という雑誌です。僕も少し編集に関わったんですが、「旬がまるごとマザーフードマガジン」ということで、毎回特集が変わるんです。次の特集がマグロ、トマトと続きます。
Q:キャベツというのが雑誌の名前かと思いました。
幅:実際、キャベツというのがほぼ雑誌の名前ですね。
本当は雑誌の名前を毎回変えたかったんですけど、手続き上できなかった。
この号では、十文字美信さんがキャベツのグラビアを撮っていたりします。キャベツを一枚一枚はがしていくと小さい葉っぱになっているところをじっくり撮っている。
他にもキャベツにまつわる記事がたくさんあります。荒木緑さんにキャベツでライトを作ってもらって、ホンマタカシさんに写真を撮ってもらいました。くだらないといえばくだらないんですけどね(笑)。シュークリームのシューはキャベツがオリジナルなので、シュークリームの特集もあります。一応料理本らしくレシピも取り上げたり、キャベツの廃棄事件を取り上げたり。建築家に建築的視点からキャベツを語ってもらったり。すごくまじめに語ってもらいました(笑)。他にはセルジュ・ゲンズブールの「くたばれキャベツ野郎」というアルバムも取り上げました。
動画でみる(4分54秒)
■「酒とつまみ」
幅:次は「酒とつまみ」です。これは本当にお酒とつまみに関するいろいろな事象を扱っています。でも通常考えるような、このお酒がうまいとかつまみの作り方とかではなく、たとえば「飲み残しのビール、次の日常温でどのビールがイチバン美味しいままか」という記事があったりして、なんだかちょっと変わっています(笑)。お酒とつまみに対するコンテンツの、さらに隙間みたいなところを埋めている。
最高にくだらない特集といえば、イカグラスというイカを凍らせてグラスにして酒を飲むというものですね。飲むと少し縮む、らしいです(笑)。ソフト裂きイカがつまみであるから、イカをグラスにして酒を飲めば効率がいいんじゃないか、というコンセプトらしい(笑)。日本酒から麦焼酎、黒糖ワインという風にお酒も変えたり。オバカな企画ですが面白い。ちょっとタモリ倶楽部的な方向に走りつつ、酒とつまみをどこまでも深くちょっとひねくれたアイディアで取り上げていくのがすごく好きですね。
読者の投稿もすごくリアルです。飲んだくれ川柳とか。
動画でみる(2分29秒)
■「TOKION」、「ワンダー・ジャパン」
幅:最近ワンテーマっぽく変わってきたよね、というのが「TOKION」です。佐藤可士和さんの特集をやって売れたからなのかもしれないですが、毎回「人」を立ててます。宇川直宏さんの特集も、宇川さんを取り巻く人から見た人物像を語っていたりして面白いです。最近の雑誌の中では当たっている雑誌ですね。資料性が高いのもいいのかもしれませんね。
幅:次は案外知られてないかもしれないんですが、「ワンダー・ジャパン」という雑誌です。都築響一イズムの正統的継承者という感じですね。日本の風景の中で、ちょっとこれおかしくない?というところをひたすら撮っている。昔は年に二回とかいい加減な出方だったんですけど、今は季刊誌です。タモリ倶楽部的なところがすごくある。
少し前に出た軍艦島特集がすごかったですね。もともと廃墟とかをルポタージュしたところから始まっていて、ちょっとずれてたり、ゆがんでたりするような日本の風景を集めています。今、工場萌えみたいなムーブメントがありますけど、そういうブームの先駆け的存在です。
今、この雑誌の編集者たちはダムを流行らせようとしてるんじゃないかと思うんですけど(笑)、ダムの特集も面白いですね。なんかそういう独特なチャレンジ精神があります。毎号毎号の特色を変えていかないときついかもしれないけど、なかなかこの雑誌は売れてきているらしいです。動きとしては面白い感じですよね。
動画でみる(2分18秒)
■「東京人」
幅:最後に、究極のワンテーママガジンで、でもあまり手に取ることがないかもしれない雑誌ということで「東京人」です。
今回は「東京の橋100選」ということで、一番最初にピックアップされているのが、皇居の橋です。正門石橋ですね。この雑誌は、ワンテーマ・マガジンという話をしたときに、気づかないくらい自然にやってるんですよね。古川英夫さんが神田川クルーズをして、川から見る東京をレポートしていたり。もともと東京というワンテーマがあるところで、橋を取り上げて歴史的な部分を広げたりしているところがスマートで面白い雑誌ですよね。東京に住んでいる人は、知っている気がするようなテーマが多いんですが、実際に手に取って見ると実はディープで面白いんですよ。橋の構造まで解説していたりして。こういうものも忘れないでほしいですね。
Q:「東京人」は資料性がすごく高い雑誌ですよね。
幅:前にも話しましたけど、「昨日ミラノコレクションでこんな洋服がありました」というようなことは、これからはインターネットに任せていくしかないわけで、揺るぎの無い要素をピックアップして加工して、というところに雑誌の未来はあるのかな、と思います。その加工能力、編集能力が問われていく中で、わかりやすく読者に伝えていくというところが、ワンテーマ雑誌というジャンルに可能性があるのかなと思います。たとえばキャベツからスタートしてどこまでも広がっていく、そういうことにおもしろさというか可能性を感じます。
昔のワンテーマ・マガジンがあったり、ティボー・カルマンの雑誌みたいなものがあったりした上での話だったりするので、とくに編集者の人にはものすごく読んで欲しいです。
読者の方にもそういう視点で雑誌を読んでもらえたりするとうれしいなと思います。
動画でみる(3分02秒)