「zine」は雑誌の未来像?前編
2007年06月12日■幅さんと一緒に雑誌の未来を考える
この連載では、「未来雑誌予想図」と題して、雑誌読みの会でもお馴染みのBOOKディレクター、幅さんと一緒に雑誌がこれからどうなっていくのかを考察します。
第一回は、「zine」ムーブメントから見る雑誌の未来、についてのお話です。
■zine(ジン)とは何?
まず「zine」について教えてください。
幅:「zine」のスタートはfan-zine、同人誌ですよね。今でもいろんな人が作ってるのですが、その歴史がだんだん進んでいって、80年代後半から90年代に入ると、マーク・ゴンザレスといった西海岸のスケーターたちが、彼らの作りたいもの、写真を撮ったりイラストを描いたり、詩を書いたり、ちょっとした情報を書いたり、そういうものを書いてそのままホッチキスでバチンと止めて、自分たちの手で流通させる、ということを始めたんですね。そこがzineムーブメントの一つの発端だと思います。
zineの作り方はすごくイージーなんですよ。コピー機でガーっとやって、遠足のしおりを作るみたいに一枚づつ重ねあわせて、ホッチキスでバチンバチンと留めるだけ、みたいな。流通も、自分たちの周りの人に配ったり、安い値段で売ったり、自分たちで売ってくれる本屋さんに持っていったりとかして、持っている情報をどんどん広めていく。今だと、そういう行為はブログとかソーシャルネットワークみたいなものに取って代わって、情報の流通も広く大きくなって劇的に進化しちゃってるんですけど、「zine」はそういうインターネットとも違って、そのままぎゅっと詰めこんでそのまま渡すという手のぬくもりがある「鮮度」がおもしろいんじゃないかと思います。
西海岸のスケーターたちが発端になっていたのは、西海岸という土地柄も影響しているんですか?
幅:西海岸だったというよりは、マーク・ゴンザレスという、絵も描くわ歌も歌うは詩も書くわ、という多芸で天才的な人がいたということが大きいんじゃないかな、と思います。彼がいたから、スケーターの間でzineというのがキタのかな、と。
これとか、ほんとに詩集なんですけど、ただノートに書き留めている感じです。黄色い紙で、写真が逆さまでも気にしないで載せたりとか、まあ、限りなく自由ですよね。これなんかキム・ゴードン(ソニック・ユース)が書いてたりしてます。普通だったら彼女に記事を書いてもらうとお金もかかるけど、ほんとに素のままのいろいろな人たちの言霊みたいなものが濃厚に詰まっている。
黄色一色で展開するアートワークもいいな、と思うんですよね。エンボス加工してみたり、細かなこだわりみたいなものに惹かれるんです。
要はzineって、一人ひとりのメッセージだと思うんですよ。雑誌でも書籍でも、ひとになにかを伝えるための手段で、それが強力になればなるほど、それはもうその人の作品集にみえてきちゃんうじゃないかと思います。
動画でみる(1分23秒)
■初期衝動のカタマリ!?
幅:これもマーク・ゴンザレスがハーモニー・コリンと一緒に作っていた詩集、というか落書きというか。読むと、「今日はきれいな景色を見た」とか不平不満とか、「あの女の子が好きだ」とかばかりなんですけど、それがなんかものすごく素敵というか、純度が高い。でももう今では二人ともプロフェッショナルとしてやってるんですが。
実際このあたりのzineって、どれくらいの量が流通してるものなんですか?
幅:ものによると思うんですが、めちゃめちゃ少ないと思います。大体100部とか。
じゃあもう本当に手で作れるくらいの部数でやってるんですね
幅:作るとき、とくに最初は部数とか決めないで作るらしいです(笑)。飽きるまで、紙が尽きるまで、コピー機が壊れるまで、腹が減るまで、とか(笑)。そういう風に、なにか日常生活に密接している感じ、自分の一部である感じが強いですよね。戦略とかなくて、自発的に作っている感じ、自分の思うがままに作っている感じがすごくいい。
このへんは落書きだかなんだかわからない。でもよく見るとなるほどねーと思ったり。で、こういうところに書かれていることが、たとえば後にハーモニー・コリンが手がける「ガンモ」っていう映画を想起するような文章が載っていたりとか。ベースというか、初期衝動というかが感じられますよね。
動画でみる(1分32秒)
■スイス発zine革命
幅:とまあ、そういう向こう見ずなやつらがですね、がんがんずっと作り続けてて、90年代後半からやってたんですけど、これらはあくまでもアメリカを中心にやっていたものでした。
それでそのあと、僕がzine史上、といってもzineにはまだ歴史もそんなにないんですけど、特筆すべき動きをしたと思うのは、スイスのニーブス・ブックスという出版社ですね。ニーブスはこのかわいらしいマークです。 ベンジャミン・ソマホルダーというスイス人が、もう一人のパートナーと一緒に作った出版社なんですけど、最初はzineしか作らなかったんですよ。でも、単なるzineだったらこういう小さいノリで、とても日本まで届いてこなかったと思うんですけど、彼らが面白かったのは、ずっと自分たち周りの写真家とかでやっていたんですけど、急に豪華なキャスティングでzineを作り出してしまったんですよ。
これが、写真家のラリー・クラークがかつて自分が作った作品集から自ら再編集して作ったzineなんですけど、これが限定150部。あのラリー・クラークが見たことも聞いたこともないようなスイスの小さな出版社から、こんなぺらぺらの紙で、コピーして綴じただけのものを出してしまったということで、最初は変な出版社だなあ、と思ったんですよ。
そのあとニーブスはいくつかシリーズで出して、キム・ゴードンやらホンマタカシが出してたりとか、世界中のおもしろい、でも独特の紙文化を愛しているようなアーティストを見出して出してくるんですよね。
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