「zine」は雑誌の未来像?後編
2007年06月12日■いきなりラリー・クラーク
幅: ニーブスはラインナップが面白かったと思います。キャスティングというか、スイスとその周辺だけでなく、日本の誰かと組んだりするところが絶妙なんですね。林央子さんの「here and there」なんかも6号からはここから出版されるようになって、あとコズミック・ワンダー、日本のファッションブランドとも本を出したりとか、なかなかちょっと独特なところがある。日本だけじゃなくアメリカもあればヨーロッパもあれば、みたいなのを始めたのがニーブスです。
みんなが知ってる名前、縦横無尽に世界からのチョイスで話題になるわけですよ。それでニーブスという出版社がフィーチャーされたり、zineという存在そのものがすごく可能性のあるものなんじゃないかと捉えられるようになったんですね。普通は自分たちが本を出そうとしてもできないんですよね。ラリー・クラークをキャスティングしたらいくらかかるんだ?みたいな。紙とかもこだわって、装丁もこだわって。でもニーブスは、ほんとにラリー・クラーク好きでなんかやろうよ、みたいな感じでスタートしている。でも本来雑誌って出版するパブリッシャーとその中身を形にするエディターとその二者さえいれば、できるわけなんですよね。
ていうところから、今のzineというのは原点に返るという動きでもあるんですね。ニーブスはそれで軽やかに出してしまって、ペースもゆるやかで、こういう小さいシリーズを一ヶ月に一度とか二ヶ月に一度出している。世界中のいろんな人たちに影響を与えています。
これとかセデルテックという、スウェーデンに住んでいる編集者というかプロデューサーたちが作っているzineなんですよ。ニーブスとほぼ同時並行なんですけど、これもピーター・サザーランドとかそういう写真家が、編集者の後藤繁雄さんを撮っていたりしています。なぜ後藤さんが?ってびっくりしたんですけど。笑。このセデルテックとかも、こういうことが可能なんだってことに気づいて、自分たちまわりのところ、プラスアルファ比較的世の中に通じている有名人もどんどん出していくという姿勢ですよね。
ニーブスも全部が有名人じゃなくて、たぶん1割くらいなんですよ。でもその一割がすごい強烈。だから残りの9割が全然知らない人の写真集でも、おもしろそうに見える。それが戦略なのか、ただのノリでそうなっているのかはわからないんですけど。そのへんはうまいなあと思います。
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■電話かけて、「なんか作ろう」
幅:あとこれは日本のユトレヒトという古本屋さんのものなんです。ユトレヒトは本屋さんなんですけど、ニーブスの代理店もやっていて、ニーブス・イズムみたいなものに感化されて、自分たちも作っちゃえみたいな。彼らがちょこちょこディストリビューションしてるんで、そんなに多いものじゃないですけど、ニーブスの本も日本で買えます。
ユトレヒトもそういうのに感化されて、たとえばノリタケというイラストレーターと組んだり、21/21のチョコレート展とかやったり、HIMAAというイラストレーターと組んだりして出してる。これももうめちゃめちゃお金かかってないらしい。好きなアーティストに電話かけて、「なんか作ろう」って言って作品集めてデザインしてバチっと止めてそれだけ。版形もほぼ同じ。
これも小山泰介さんという方の写真集とか。
これプリントきれいですね。
幅:でもこれとかも毎度毎度数百とかいう単位で、自分たちにできる範囲で、本業に支障のない程度にしか作ってないんですよ。今シリーズで月一冊くらいのペースで出しています。一冊1,000円くらいです。どれも同じくらいですね。全然ビジネス的な視点で考えてないんですよね、みんな。
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■メジャー出版社のzine
幅:これがみなさんご存知のビジョネアという雑誌、1イシュー、1クライアントという、雑誌という形式からは離れたビジョネア・マガジンという出版社が、ビジョネア・ブックジンを作り始めたのがこれです。
一回目はエディ・スリマンが撮ったコートニー・ラブの写真集。二回目はブルース・ウェバーの写真集です。ほんとにこんなに小さい版形なんですが、でも高い!さすがビジョネア!みたいな。笑。世界で2,500部です。zineというには部数は多いですが、zineを名乗ってるから認めてあげないと。笑。
ビジョネアっていうカルチャー全般において影響力のあるところが、世界各地で動きのあるzineというムーブメントに注目したりとか、時代の流れとして新たに紙媒体に注目したりとか、ポジティブでいい面を感じているからこういうものを出しているんじゃないかと思うんです。
よくできてますよ。やっぱりエディ・スリマンの写真はいいし、この写真集だとコートニー・ラブもいい。ある地平に達してる感があります。僕自身スリマンの写真が大好きなので、いいですね。でもたしか値段が80ドルくらいしたのかな。zineの値段じゃないな、という気がしたり。ちょっとした写真集ですよね。ひょっとしたらzineの初期段階というのが前に挙げたようなものだとしたら、これが盛り上がってくると違った形のzineもできてくるんだろうな、と。自ら名乗ってるんだから認めるか、みたいな。笑
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■ここからプロにいけて、プロもいつでも戻れる
幅:そんな感じで、最後に、僕が好きなzine、レイモンド・ペティボンのものです。イラストレーターというよりは現代アーティスト、ペインターとして有名になっている彼が出したものです。この人の絵は今はものすごく高いのに、そんなあなたもzineですか?みたいな。笑。
これは2006年に作ったものなのですごく最近なんですが、最近の作品を集めてきたりとか、本にはならないようなものや、風刺が効きすぎているものを集めたりして、450部限定で作ってたりします。
あとこれは、マーク・マンダースというアーティストが作った「ファイブ」というものです。彼は写真作品を使って、日常の中によく見えるいろんなものを使うんですけど、それを普段ない場所に変なバランスで置いていくことで作品を作る人です。これはその真骨頂だなと思うんですよ。人間が五人いるだけとか、椅子が五脚とか。それだけなんだけど、すごくかっこよく見える。5というものをテーマにこんなに作れるのか、と。ボール五個だけとか。これはプロの技ですよね。これは5文字の単語を並べてるのかな?読めないんですよ、これ。五文字の単語が五列あって、みたいなノリだと思います。
zineは誰でも作れるものなんだけど、第一線で活躍してるアーティストたちもいまだにこういう手法を愛しているということが面白いと思うんです。ここからスタートしてプロにもなれるし、プロもいつでもここに戻れると言えるんです。
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■紙にのせた瞬間がスタートライン
ビジョネアみたいに、いわゆる普通の商業雑誌もzineも出してるところってあるんですか?
幅:どうだろう。ないと思いますね。ビジョネアってそういう意味で新しいのかなと思いますね。zineの存在に注目するということ自体、出版社の感覚としては新しいなと思います。2007年はそういう動きが日本でもあると面白いですよね。
実は消費者の方、読み手の側はもっとほんとの声を聞きたがってるんじゃないかと思うんですよね。zineだと、わりとそのまま出るところじゃないですか、ちょっとこっ恥ずかしかったりするような素の部分が。でもこういうダイレクトな声って強いですよね。そういうのが増えてくるといいな。
雑誌ってやっぱり甘酸っぱい感じが必要なのかなという気がしますね。文字があろうが、イラストがあろうが、写真があろうが、ホッチキスで綴じた瞬間に、いや、たとえ綴じてなくても、紙にのせた瞬間がスタートライン、というか。そうなると雑誌の未来は、また違った見え方がしますね。
この項おわり
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