中国雑誌事情・後編
2007年08月13日■中国アート事情
幅:これは完全に絵なんですよ。絵なんですけれど、リアリズムがすごい。ちょっと見ただけだと写真みたいです。モチーフ云々というよりは描ききる技術力がすごいですよね。
ちょっと話それちゃうんですけど、こういう面白いものが中国にはあるんですよ。
中国に行ったときに面白かったのが、本屋さんに行くと、絵の技法書、デッサンとか、ああいうもののコーナーがすごく大きいんですよ。日本だと、絵のコーナーには作品集とかの方が多くて、技法書なんかは一割にも満たないくらいの品揃えなんですが、中国は技法書が7割くらい。みんな絵の勉強をしましょう!という感じです。それで結果的にこういう本が出てきたりしてる。中国のアートは今、ものすごく景気がいいので、みんな絵を描いて一攫千金!みたいなところがあるみたいです。鑑賞するというよりも自分で描くものだというマインドのようです。
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■中国はエディトリアル・デザイン大国でした
幅:中国のひとたちは、雑誌を作るということにかけてはもともと非常にセンスがあるんですね。
実際にはべたべたなファッション誌もあるんですが、カルチャー誌の流れもきちんとあって、かっこいいエディトリアルデザインもしっかりあるし、30年前にはこういうものが普通に流通してたりという系譜もある。国家的なシステムがどーんと変わったこともあるんでしょうが、そこで断層があるわけでなく、リニアに繋がっている。雑誌というものを作るセンスは通底してますね。
扱ってるコンテンツもよく調べてあるわけですよ。たとえば日本だと「Casa BRUTUS」がピックアップしそうなコンテンツも、さらに深い部分まで掘り下げていたりして面白い。
Q:ビジュアルの発達というのは、広い中国で言語が少しづつ違うからというのもあるからなんでしょうか。
幅:そうですね、言葉で伝えるより絵で伝えたほうが早いと思ってる部分はあるかもしれませんね。そういう意味でも、まさに中国はエディトリアル・デザイン大国でした、と言えるのかもしれないですね。
幅:これはフリーペーパーですね。結構フリーペーパーはたくさんあって、街のスタンドに置いてあるんですが、中身はガイド的なものが多いです。
Q:これも街のスタンドに置いてあるんですか?
幅:そうですね。これは「Time Out」。
Q:「Time Out」もフリーペーパーなんですか?
幅:そうです。このへんもフリーペーパーですね。きらきらな感じで。
こんなにお金かけちゃって大丈夫?みたいな余計な心配をしてしまうほどの充実度です。
Q:紙もいいものを使っていて、とても無料とは思えませんね。
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■飽くなき作りこみ
幅:もう一つ、おもしろかったのが、雑誌じゃないんですが、版形が全部同じのこの本なんです。情報があまり入らなかった時代に、アミューズメントが欲しかったんでしょうね。日本のテレビ番組の「一休さん」の場面をそのまま撮影して、セリフをつけて本にしてる。これは農村部とかも含め、いろんなところにいきわたっていて、発行部数が何十万部とかすごいんですよ。これは35万部ですね。
これは007です。「ロシアより愛を込めて」とか、これは「賭場」って書いてあるんで、おそらく「カジノロワイヤル」ですかね。これは場面写ではなくて絵ですね。ここまでして読みたかったんだな、と感慨深い気持ちになります。1コマ1コマ手で描いてます。ものすごい手間がかかってますよね。
Q:中国ではフォトショップが出る前からアナログでやってたんですね。
幅:こういうのを見てると、忍耐強さを感じますね。自分がやりたいと思ったらやりきっちゃうんですよ。普通に考えたらものすごい大変じゃないですか。そういうすごさはありますね。
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■ビジネスというよりは情報伝達手段だった
幅:これは切手雑誌ですね。これもグラフィックが非常にうまい。なんで切手の雑誌でこんなに?という感じはあるんですが。笑。
これは旅行雑誌。40年間を経て、この雑誌がこうなりました。
Q:同じ出版社なんですか?
幅:当時は国が出していたんですが、今は民営化されていますね。ですが流れは一緒だと聞きました。
民営化はされた後も、国が長い間面倒を見ていた雑誌は続いてるものが多いらしいです。国営の当時は出版ビジネスというよりは、単純に情報伝達手段だったんでしょうが、それは逆に今みたいに、広告とらなきゃ!とかそういうプレッシャーがないですよね。クオリティに専念するような環境があったんだな、と思いますね。
Q:中国は本当に奥が深いですね。
幅:今だと、大学の出版部の豪華な設えの本などが注目に値するかもしれませんね。
ブッ飛んだものを大学の出版部が作っているというのは面白いですね。一番最先端なことを大学がやっているというのは、健康的な状況だと思います。
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