No.001 河尻亨一(広告批評 編集長)
(2)広告批評のおくりびと?
河: あの箭内さんのインタビューが入ってる「広告2003」っていう特集は、僕が出した特集の企画で初めて採用してもらえたものなんですよ、実は。
広告の特集は売れないと上層部に危ぶまれつつ。でも、当時、クリエイターの独立ラッシュが起こってて、シンガタなんかもできようとする頃で、これは何かあるなと思ってたんですね。
で、そのムーブメントの意義は大きかったといまも思うんですけど、でも、あのときまだ「風とロック」って名前が決まってなかったんですよね。
インタビュー終わって箭内さんを外まで送って行ったら、「なんかいい名前ないすかね」って聞かれましたもん。
箭: そうそうそう。
河: ジプシーCD (クリエイティブ・ディレクター)時代ですよね。
箭: そうなんですよ。ほんとに事務所ナシですからね、2003年。
河: 僕もジプシー編集者になろうと思ってるんです。(笑)
箭: いいじゃないですか。でも、まあ褒め足りないですね。「広告批評」のことは。あと、やっぱりオレ批評って言葉が好きで、亡くなった白滝(明央)さんにも河尻さんにも言われたんですけど、箭内さんの仕事は批評的にCMを作ってますね、と。
河: うんうんうん。それ、結構みんなに言ってるんですけどね。(笑)
箭: えっ!? それ、なんか寂しいじゃないですか。(笑)オレのいままで心の支えっていうか柱ですよ。
河: 折っちゃいましたね、心の支え。
箭: 何言ってるんですか、ジプシー編集長。
ヨシヒロ: アハハハ。
箭: あらららら。(笑)まあ、気を取り直すと、広告にとって批評的であることが重要だと言いたいわけですよ。社会と広告の関わりを考えないで作っていいんですかってメッセージを「広告批評」は毎月雑誌で発信していったし、僕もそういう気持ちで、新しいCMを企画していったっていうね。
でも、10年前の「今月のクリエイター」の取材のとき白滝さんが言ってくれたことがもう一個あって、「箭内さんの広告の作り方は編集ですね」って言われたんですよ。自分の好きなものを集めるとか、一冊の雑誌を作る感じでCMを作ってるねって言われて、「あ、そっか」って思った。
そっから「月刊 風とロック」とかにたどりついたんじゃねえかなって、ちょっと思うところがあるんですよ。
河: そうだったんですね。いま褒めていただいたんですけど、「広告批評」としても箭内さんには感謝感謝なんですけどね。この10年くらい雑誌を引っ張っていただきましたから。特に僕メインでやり出したこの3年は大役を引き受けていただくことが多くて。
このあいだのシンポシオン(「広告批評」のファイナルイベント)もそうでしたけど、広告学校での木村カエラちゃんとのスペシャル講義とかね。
なかでも個人的に一番大きいのは、箭内さんの特集を組んだとき(2006年)。あれ、ちょうどスタッフが入れ替わるときで、これほとんど僕独りでやらなくちゃいけなくて。
箭: そうだった。河尻さんとやってた、この箭内道彦特集。
河: いまだから言うと、この企画も結構危険視されてたんですけど、僕独りしかいないから、やらさざるをえなかったという。“2006年の乱”のときでちょっと大変だったんですけど、これやって編集者としての自分のスタイルというか、最後の3年の方向性をつかんだ気がするんですね。 取材も面白かったです。箭内さんの密着記事を作ったりして。プレゼンから撮影、編集まで2週間ビッチリはりつかせてもらいました。それまでの広告批評は、サロン型の取材が多かったというか、クリエイターの特集をするにしてもロングインタビュー一回やって、作品集めて対談をひとつみたいなフォーマットが決まってて、個人的にはちょっともの足りない気がしてたんです。箭内さんのような人は、作ってるものもそうだけど、その毎日がクリエイティブなわけじゃないですか。そこをキャッチするにはどうすればいいかと考えたんですね。密着すると、その合間に話も聞けるんで、それがものすごい長いロングインタビューになって、キーワード別にまとめたり。 昼間は箭内さんと行動して、夜、人のいないオフィスに戻り、朝までコッソリ作業する毎日で、2週間くらい箭内さんと動いて、けっこう勉強になりました。色んな人に会えたし、つかめるものがあったというか、仕事ってこのノリでやっちゃっていいんだと。(笑)
箭: うわーっ、褒め合ってる。土曜の深夜に。終わって行く二人が。(笑)
ヨシヒロ: イチャイチャしてますね。(笑)
河: でも「広告批評」が箭内道彦を作ったとしたら、実は「広告批評」が終わったら「風とロック」も終わりなんじゃないですか。
箭: いや、ほんとそうなんですよ。不況って僕嫌いな言葉ですけど、ややオレ直撃受けてて、ほんとだったら広告批評オレやりますよって言いたくてしようがないんだけど。
河: 言ってください。(笑)
箭: でも、広告自己批評になっちゃったときにね、作りながらも中立な立場を守って行けるかって言うのは、やっぱすげー不安なわけですよ。例えば仲のいいクリエイターが、「箭内、新しいCMさ、お前の“広告新批評”で褒めてくれよ」って言われたときに、ピシャリみたいなことができるのかどうかとか、自分のものはゼッタイ載せませんなのか、自分のものだけ載せて作りますなのか、スタンスの取り方がすごく難しくなると思ってて。広告批評っていうのはやっぱりね、そこにいた、天野さんだったり、島森さんだったり、河尻さんだったりっていう存在が、作り手とは別のところにいたということがなんかすごくでかい気がして、それを失うと広告はただの媒体を埋めるものにちょっと成り下がるんじゃないか、批評するに足りないものになるんじゃないかと思うとちょっと寂しいですね。
河: 僕らやっぱり、ちょっと広告界から離れたところにいる人たちなんでしょうね。業界誌じゃないじゃないですか。実は作ってる方とも、距離おいてますよね。だから、わりとみなさんと仲良くできるっていうこともあるかもしれないですけど。
箭: 仲良しになっちゃいけないんでしょう?
河: うーん、いわゆる交際という発想があんまりないんですよ。で、パーティとか誘っていただいても陰からコッソリ観察しようみたいな人なんで。まあ、スナイパーですよね。(笑)話してもなんとなく取材みたいになっちゃう。長く広告学校の先生をしていただいているような方の場合は、またちょっと違うんですけど。
ヨシヒロ: そういうこと意識してるんですか。
河: 意識してるってこともないんですけど……もともとそういう人なんじゃないですか。派閥に入れない質というか。(笑)でも、批評っていうのはそういうタイプが向いてるというか、ある種のフェアさと、これは言い方が難しいですけど、ぶっちゃけ一種の無責任さがないとできないですからね。人の作ったものに対してなんだかだ言うなんて。だから、自ら作り出していないクセに、よけいなことを言うなっていう意見は実は半分正しいんですけど、それ言い出すと批評とかジャーナリズムは成り立たないですからね。
箭: そう言えば、なんか涼しげにしてるよね、「広告批評」の人たちって。(笑)みんな呉服問屋の着物とかが似合いそうじゃない?(笑)なんかわかるなあ。でも、その中立を守り通しましたよね、最後までね。
河: そうですね。そうしかやりようがなかったというか。だけど、もしかしたら広告を作ってる方にしてみれば、物足りないかもしれない……まあ、クラスの中で浮いてるヤツですよ、分析癖があって、お前の言ってることは正しいかもしれないけど、オレらの気持ちはわかってくれない、みたいな。でも、僕らは広告を通していまの世の中のことを知りたくて、それを伝えたかったり、こう思うってことが言いたいわけだから、そこにどうしても距離があるんですね。そうやってちょっと引いた位置からのほうが、ほんとの意味での広告の応援ができると僕は思ってるんですけど。
まあ、箭内さんみたいにジャーナリスティックな肌感覚を持ってる人はそこの意識も共有できたりするので、ちょっと違うんですけどね。
箭: またあ、それもみんなに言ってるんでしょ。(笑)
ヨシヒロ: 二本目の柱折れましたね。
箭: かなり折れたよ。オレ、もう生きて行けないわ、これ。(笑)
河: いやいや、そっちはあんまり言ってないです。まあ、広告を作ってる方の中には、もうちょっと自分たちのところまで来てくれよっていうのもあったんじゃないかと思うんですけどね。
箭: とはいえ、そういう人たちも「広告批評」ってすごい気になってただろうし、「広告批評」に選ばれたCMと載らなかったCMに対して、嫉妬したり慢心したり、いろんなこと思い続けてたんだと思うんですよね。だけど、やっぱりすり寄ることをゼッタイしないでここまで来たから、ここで終わってしまったというか、ある種名誉の戦死じゃないですか。そこを捨てれば、雑誌を継続する方法なんていくらでもありそうだし。
河: できないことはないんでしょうね。
箭: 一冊まるごとどこかの企業を特集するから、媒体料として一冊300万円でタイアップしましょうとか、オレお金出すからオレを特集してくれよって人がきて、その人を特集していくっていうふうになっていったらたぶん休刊にはならなかったんだけど、それでは「広告批評」のアイデンティティというか、立ち位置とは違うものになっちゃうんでしょうね。
河: それはね、やりたくないんですよね。やりたくないというか、やれないというか。今年一年編集長やったんですけど……。
箭: そうなんですよ、これ言いますよ。一年前に休刊が発表されたんですよね。2009年4月号での休刊が発表されて、最後の一年間は編集長として任されたわけですよね。
河: そうです、そうです。
箭: ある種、広告批評の“おくりびと”ですよね。(笑)
No.001 河尻亨一 “NO 広告批評, NO 風とロック.”
河尻亨一(かわじり こういち)
元・広告批評編集長。2000年「広告批評」に参加。これまで企画・取材を手がけたおもな特集に、「エコ・クリエイティブ」「歌のコトバ」「箭内道彦 風とロック&広告」「Web広告10年」「ワイデン+ケネディ」「FASHION COMMUNICATION」「テレビのこれから」「オバマの広告力」などがある。
広告批評ファイナルイベント「クリエイティブ・シンポシオン」をプロデュース。
2009年中に、幅広い視点から時代のコミュニケーションとコトバ(表現)を読み解く、新レビューサイトを立ち上げる予定。
No.001 河尻亨一 “NO 広告批評, NO 風とロック.”
No.002 松田晋二・菅波栄純(THE BACK HORN) 『福島ロックンロール会議』
No.003 松田晋二(THE BACK HORN)・山口隆(サンボマスター)・渡辺俊美(TOKYO No.1 SOUL SET)・箭内道彦(風とロック) 「猪苗代湖ズ」
No.004 増子直純(怒髪天)・松田晋二(THE BACK HORN)・箭内道彦(風とロック) 「風とロック芋煮会参加の手引き」
No.005 「月刊 風とロック」3月号 怒髪天
No.006 「月刊 風とロック」3月号 サンボマスター
No.007 西田敏行・是枝裕和・渡辺俊美・箭内道彦