No.001 河尻亨一(広告批評 編集長)
(3)休刊キャンペーンを総括する
河: いいですね、カッコよさげで。同じことをヒドい言い方で言う人もいますから。「あと片付け人」みたいな。(笑)一年前の春に、さる高名なクリエイターからそういうことを言われて、やる気でましたけどね、逆に。(笑)
だから、この一年はいかに単なる懐古とか、まとめとか、あと片付け、つまり「広告も広告批評も昔はよかったよねー」的なことにならずに、雑誌をうまく着地させるかが勝負でした。広告批評のベースに乗っかりつつ、どこまで新しいことができるか。その上で、いかにも“広告批評”な決着をつけられるかどうか。淡々とやってるようでこれが難しい。自分ではギリギリいい感じでやれたというか、次につながる種くらいはまけたんじゃないかという自負はありますけど。
で、ほかのメディアの取材を受けたときには「やりたい放題やった」なんて無責任なこと言ってるんですけど、それは滅茶苦茶やったっていう意味ではなくて、どっちかっていうと、「広告批評」であるために、一年間なんていうんですかね? 休刊発表をして、もう終わるぞという環境をあえて作ることで、注目って言ったらヘンなんですけど、「広告批評」を再プレゼンテーションするというかね。可能性も限界も見極めたいっていうことなんです。それができたらとりあえず成功だなと。
だから自分では「休刊キャンペーン」なんて言ってて、まさにそういう一年になったなあという気がするんですけど。
箭: でも、広告批評の編集長って歴代で3人しかいないわけでしょ。しかも天野さん島森さんってものすごい人たちで、その後を継ぐって重いものではなかったですか。一年だからとかね、最後の休刊キャンペーンを担当する、期間限定編集長だからって自分の中では理解しようとはしてたかもしれないけど。
河: いや、この3年で言えば、その前とやってることは、基本そんなに変わらないんですけどね。特集を企画して、アド・トレンドで取り上げる広告選んで、取材して原稿書いて、レイアウト決めて入稿して、その合間に広告学校行って、イベントのプロデュースしてってことなんで、特に編集長だから何か変わったってこともなかったです。
重いって言えば、その前のほうが重かったですね。編集長でもないのに、それに似たことやらないといけないっていうのは、まあヘビーですよね。世の中的にも認知されてないし、スタッフもどうすればいいかわからなかったりするので、その肩書きがつくことで、いろいろ決められるっていうのはむしろ楽でした。でも、面白いですよね、編集長。箭内さんどうですか。
箭: 面白いですよ。でも、オレね、「月刊 風とロック」作って5号目くらいまでは言えなかった。なんかめちゃめちゃ照れくさくて。編集長ですとは言わないようにしてましたね。でも、やっぱり言って雑誌を背負っていかないと中身は面白くならないんだなってことにちょっと気づきましたね。言わないとダメですよね。編集長って。何だお前目立ちたがり屋なのかとかって思われそうで、もうちょっと言わないでおこうと思ってたんですけど。
ところで、編集ってなんですか、河尻さんにとって。編集って、あそこにうちの編集のスナイパーがいるわけですよ。ナウマンっていう。(笑)彼みたいに、こうやってラジオでダラダラしゃべったのをパパパって刻むのも編集だし、僕らがCMを一杯素材を撮って15秒にどう構成するのも編集だし、同じ編集って言葉をいろんなものにみんな使い過ぎてるからこんがらがるなあと思ってたんだけど、結局同じじゃないかなと思うんだよね。
河: 難しいですねー。編集ってやっぱり他人のアウトプットや世の中の出来事をセレクトしながら、自分の生理を通してある形にしていく作業だと思うんです。インタビューひとつをとってみてもしゃべったこと全部使う訳じゃないじゃないですか。人のしゃべったことの中で、ここが面白いと思うことを切り取ることで、自分のやりたいことが実現できるぞっていったらヘンなんですけど、読み手に視点を提示することができますよね。
だからこそフェアで、あるところでは無責任じゃないとダメだと思うんですけど、それをどこまでナチュラルでキャッチーに深くやれるかってことじゃないかと思っていて、その意味で言うなら、クリエイティブって全部編集のような気がしますね。
箭: 僕、シブヤ大学でインタビューっていう授業をやって、インタビューは相手の中に、自分を見つけたいだけじゃないかみたいなことを言ったんですね。いま河尻さんの言った感じもちょっと近くて、自分の言いたいことをほかの人に言ってもらうっていうと、ヘンな乗っかり方に聞こえるけど、自分の言いたかったことを相手が言ってくれたとき「あっ」て思いますよね。それを誘導するわけではもちろんないんですけど、それを集めてる感じは確かにありますね。
河: そうなんです。自分の言いたいこともそうなんだけど、自分が世の中を解読するためのテキストを作ってる、みたいなノリなんです、僕にとっては。でも、それをうまくやれれば、共感してくれたり、何か感じてくれる人もいるはずだって思ってるんですね。
箭: そうなると一体化してきますよね。オレらもそうですよ。ソシ、ヨシヒロ、ナウマン、ヤナイもう鉄壁のチームですよ。(笑)いいチームだよね。あれ? 自分らのことになっちゃった。いま何の話してましたっけ?
河: やっぱ箭内さんの言ってる合気道ですよね。一種人の力を使って自分のものを作って行くというか。
箭: でも、なんかそのことが恥ずかしいと思った時期はないですか? 例えば、自分は何も作ってないなあというか、自分はそのシーンの真ん中には行ってない寂しさというか。オレはそうじゃないと思うんだけど。
河: えっとね、恥ずかしいという気持ちは全然ないんですけど、一種ジレンマ的なものはつきまといますよね。さっきの仲よくできないっていう話と共通してるんですけど、僕らはシーンの真ん中に行かないことで全体をつかむ人なんで、一番コアな部分に近いようで遠いというか。でも、それは批評とかジャーナリズムの運命じゃないっすかね。真ん中っていうのは台風の目みたいなもので、そこに行った瞬間、無風状態になりますよね? そうなると、距離がなくなって視点を失ってしまうわけで。だけど、限りなく中心近くまでいかないと、面白いと思ってもらえる批評はできない……。そのジレンマを埋めるために、僕らはひたすら企画して取材して書くんじゃないですかね。それはこ難しいことを書くような評論家から、新聞記者、ワイドショーのレポーターにいたるまで、批評家やジャーナリストは基本同じだと思うんですけど。自分がアクションを起こしたり、何かを生み出したりしない替わりに、常に新鮮なネタを追い続けることでカタルシスを得ているというか。
一方、シーンの中心にいるほうは、生み出し続けるのが大変ですよね。ちょっとパワーダウンした瞬間に、別の意味での無風状態になってしまう。なんかうまくできてると思うんですけど……。そう言えばビートたけしさんが昔、「オイラは常に2位から3位くらいの位置にいたから生き延びることができた」って、漫才ブームを振り返って発言されてたんですけど、これって極めて頭のいいやり方で、シーンの中心でクリエイティブしながら、批評的立場もキープするってことだと思うんです。箭内さんもそういうとこあると思うんですけど、そうなると自ら“メディア”になっていかざるを得ない。篠山紀信先生もそうですね。だから批評力、編集力がすごい。まあ裏を返せばズルいってことなんですけど(笑)、なんていうのかな? 僕はそういうサバイブ力というか、一種商人(あきんど)の才覚を持ったクリエイターが好きというか、人として尊敬しちゃいますね。大阪人なんで。(笑)もうかるとかもうからないとは別に、自分もそういうスタンスでやっていけると素晴らしいとは思いつつ、これはかなりの才能とバランス感覚がないと難しいことなんでしょう。
でも、広告を作ってる方がうらやましいのは、賞があったり、メディアで紹介されたりってことがありますよね。僕らってそういうのがあんまりないというか、エントリーもできませんから、そういうのは素直にいいなーって思います。(笑)雑誌の企画賞があれば、この1年とかは何らかの賞は取れると思うんですけどね。今日言っときたいのは、もうちょっと褒められてもいいのではないかと……。(笑)
箭: この番組ではいま絶賛褒め褒め中ですよ。(笑)なんか「褒めるもんか!」みたいな、やっかみも含めてなんかあるんだなあ。
河: まあ、メディア自体は褒めないですけどね。
箭: メディアは一番外側で何か言う人だから、その外側からメディアを褒めたりする感覚はあまりないのかなあ……。
河: 褒められたいというより、いい面悪い面含めて、きちんと批評してもらえるとうれしいんですけどね。ブログとかで褒めてくれたり惜しがってくれる人はいっぱいいるんですけど、「なんか違うねんけどなあ……」というのも結構あるというか。まあ、そこは自分も気をつけないといけないんですけど……。たまに鋭い人もいて感心します。逆に意味不明の中傷もあったりして、そのへんはちょっとね、お手柔らかにみたいなね。(笑)
箭: しかもこんなね、若造が編集長になって、「なんだよ、河尻!」みたいなね。(笑)
河: そうなんですよ、言っとかないと。若いんですよね。(笑)
箭: 喋り方はね、ちょっと落ち着いてるというか、ジジくささもありますけど。(笑)いま何歳?
河: 34ですね。
箭: うわー。(笑)
河: 箭内さんの10個下なんですね。(笑)で、天野よりは約40下なんですよ。
箭: じゃあ、天野さんが「広告批評」作ったときより10歳若いんだ。
河: そんなもんでしょうね。
箭: でもね、34って言ったらもう十分ですよ。男は32歳の前かあとかしかないからね。オレの中で。これ女の人にはわかんない話かもね。(笑)32歳で男は成人するんです。
河: 箭内さん、34のとき何してました?
箭: 広告批評の今月のクリエイターで取り上げてもらったときですね。
河: 実質的なデビューの歳ですよね。僕はやっと卒業って感じなんですけど。(笑)
No.001 河尻亨一 “NO 広告批評, NO 風とロック.”
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河尻亨一(かわじり こういち)
元・広告批評編集長。2000年「広告批評」に参加。これまで企画・取材を手がけたおもな特集に、「エコ・クリエイティブ」「歌のコトバ」「箭内道彦 風とロック&広告」「Web広告10年」「ワイデン+ケネディ」「FASHION COMMUNICATION」「テレビのこれから」「オバマの広告力」などがある。
広告批評ファイナルイベント「クリエイティブ・シンポシオン」をプロデュース。
2009年中に、幅広い視点から時代のコミュニケーションとコトバ(表現)を読み解く、新レビューサイトを立ち上げる予定。
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