No.001 河尻亨一(広告批評 編集長)
(1)広告批評が箭内道彦を作った!?
箭: 箭内道彦 河: 河尻亨一(広告批評) ヨシヒロ:山本佳宏
(収録前)
箭: どうですか、いまの感想っていうか。
河: 久しぶりの娑婆だなあみたいな。卒業式後の気分です。(笑)
箭: もう終わったって感じ?
河: えっとね、4月20日に会社を出なきゃいけないんですよ。で、いま後片付けしてるんですけど、出版社店じまいするのは大変ですね。紙の量がすごくて。重い。全然、片付かなくて夜逃げに近いものがありますよ。(笑)
箭: なるほど、なるほど。考えてみれば、メチャクチャな終わり方だよね。(笑)
河: なかなかヒドいもんですけどね。ま、こんなもんなんじゃないですか。
箭: あれはやったんですか。最後の号で(ファイナルイベントの感想を書いた)みんなのブログから優秀なのを載せるっていうの。
河: 一個だけやりました。いろいろ見たんですけど、正直あんまり「これだ!」ってのがなくて。でも、一人だけ「これはクリエイティブ界のフジロックだ」って書いてくれてる人がいたんですよ。
箭: あのイベントをね。
河: そうなんです。それは僕が思ってたことに一番近かったから、自分のレポートでそのフレーズの引用だけさしてもらったんですね。
(サントリー「ほろよい」が到着する)
箭: あの人はソシさんと言います。
ソシ: コンビニ一発目でヒットしました。で、買い占めました。この界隈には(「ほろよい」は)もう存在しないです。
箭: 結構律儀なんですよ、うちの番組。(笑)
河: いただいちゃっていいですか。
箭: もちろん、両方飲んでください。梅もレモンも。
河: (袋から唐揚げのパックが出て来る)あ、食いながらやったりするんですか。
箭: そう、だから次にここ(スタジオ)に入る人たちはくさいんですよ。(笑)じゃ……。
河: あ、始まる……?
箭: はい……。(沈黙)……いまのも全部録ってたんじゃないですか。(笑)
ヨシヒロ:たぶん回ってると思うんですけどね。
箭: なんか考えてるんですよ。彼(ディレクターのナウマン)なりに。いま初めての壁に当たってますから、この番組。全国ネットになったんですけど、そのことを意識しすぎて、どうしたらいいかわからなくなってる。だれに向かって何しゃべればいいかわからなくなっちゃって、棒玉ばっか投げてるんです。(笑)まあ、ちょっとやりましょうか。
(収録スタート)
風とロック、箭内道彦です。こんばんは。「広告批評」という雑誌がありますよね。この雑誌のことはこの番組でも何度か話をしたことがあるんですけど、最近、世の中に出たCMとスタッフが紹介されてたり、その中でも「広告批評」がいいCMと判定したものについてはちょっと大きく取り上げたり、「今月のクリエイター」っていうロングインタビューがあったり、あとは毎月毎月の特集がありますよね。映画を特集したり、世界のコマーシャルを特集したり、先月は篠山紀信さんが特集されたりね。
これが創刊30周年を迎えたんです。30年ですよ。オレが15歳のときだから……そう言えば、バナナが表紙の「広告批評」(1980年の糸井重里特集)買いましたよ。
河: あー、ありますね。高校くらいのときに?
箭: え、え、いいんすか? まだご紹介してないんですけど。(笑)
河: あっ、まだしゃべっちゃダメなんですね?
箭: ダメじゃないですよ。うん。「ダメじゃないよ」っていうときのこの気持ちよさ?(笑)そこで、“「まだしゃべんないでくださいよ、ちょっと…」じゃない自分たちってどう?”っていう重い症候群にこのヨシヒロはかかっちゃってて、マズいんすよ、いま、この番組は。(笑)
(収録続行)
で、なんとですね、これも何回もこの番組で言いました。4月の創刊30周年記念号をもって、この雑誌が休刊! まあ、休刊という名の廃刊ですけどね、横尾忠則に言わせれば、はい。(笑)で、今週の「ラジオ風とロック」は、ゲストに「広告批評」最後の編集長、これちょっとカッコよすぎる言い方ですけど、河尻亨一さんをお迎えしました。
河: よろしくお願いします! やっと言えた。(笑)
箭: 河尻さんは昨日は最後の号の校了日? 校了っていうのはどうなんですか、初めての人に言うと。
河: 雑誌においてこれですべて終わりってことですよね。もう全然直せないぞっていう。うちなんかだと、なんていうんですかね? 作り方が綱渡り的というか、ふつう月刊誌って、校了のときには完全直しナシに近い状態まで行ってると思うんですけど、「広告批評」って結構ギリギリまで中身変えたりしちゃうんですよね。台割決まるのが入稿前日とか、入稿してからも取材してたりするんで。(笑)で、校了のときはかなり山場というか、クライマックスになるという。
箭: 原稿の直しが戻ってこなかったりね。
河: そうなんです、ギリギリまでつめこんでるんで。最後の最後まで粘るなんて言うとカッコいいんですけど、あせってヒヤヒヤしてる。(笑)
箭: この前の土曜日(この収録は翌週水曜)に篠山紀信先生と明日花キララさんとでトークショーやったんですけど、それ、仕掛人河尻さんだったクセに、汗びっしょりで会場に来て、30秒後にはいなくなってましたよね。(笑)
河: いやー、申し訳なかったです。それ脂汗です。(笑)
箭: で、ついに最後の校了を済ませたってことなんですね?
河: ええ、だから今日は久々の娑婆って感じなんですね。で、解放感が…。(笑)
箭: でも、この解放感がひとつの虚しさになるってことないですか。
河: 全然虚しくないですねー。(笑)もうやりきったっていう感じなんじゃないですかね。
箭: あらら、そう。(笑)まあいつかね、「広告批評」をラジオで広告したいと思ってたわけですよ。オレら「広告批評」ファンクラブに入ってるから。
河: なんすか、それ。(笑)
箭: いやいやホントに。それがね、こんなタイミングになってしまいましたと。
河: でも、いいタイミングですよね。
箭: ま、そうですね。僕はね、このあいだクリエイティブ・シンポシオン(「広告批評」のファイナルイベント)で、斉藤和義さんと「音楽合気道」っていう対談をしたときも冒頭で言ったんですけど、僕は「広告批評」がなくなるのが、ほんとすごく寂しいですよ。寂しい人ランキングのわりとこれね、三位以内に入ると思う。
河: ほかにだれが入るんですか。(笑)
箭: だれでしょうね。でも、オレは「広告批評」がなかったら、風とロック作ってないもん、たぶん。
河: あー。
箭: 広告業界って賞を獲って有名になったり、大きな仕事を勝ち取って評価されたりっていう世界じゃないですか。それでどんどんまた面白い仕事が来るようになる。でもオレはそことは無縁……仏。(スタッフ爆笑) えっ、何? うわっ、すげーつまんないこと言っちゃった。(笑)いや、オレの中では「広告批評」が死んじゃうみたいなイメージがあったから、仏っていうのが出たのかもしれない。
ヨシヒロ:はははは。成仏じゃないですか。取り返せないです、もう。(笑)
箭: いや、僕は「広告批評」が早い時期にインタビューしてくれたんですよね。ちょうど10年前ですよ。L'Arc~en~Cielの広告とか、カップスターで吉田拓郎さんが踊ってるのとかやってた頃に。あれを見た別のクライアントの人がお前面白そうだなって言ってくれたり、会社の人たちが、箭内ってこういうヤツなんだって思ってくれたりして。まあ、広告界なんて小さいかもしれませんけど、僕は広告の世界の中でメディアから登場した最初で最後の制作者なんですよ。みんな別の評価から出て来てるんで。例えばスターチームにいて、その人の弟子だからバーンとデビューするとかね。でも、僕はそうじゃなくて第三者がもり立ててくれたから、なんかいま色んな仕事ができていて、言わば広告批評ッ子なんですよ。だからものすごく寂しい。「NO 広告批評, NO 箭内道彦.」なんです。……また気持ち悪い? そんなこと言うと。(笑)
河: いやいや、ありがたい話ですよ。
箭: 「広告批評」がなかったら、世の中に出てこなかったクリエイターってほか知らないでしょ? 僕以外たぶんいないと思うんですよね。
河: じゃあ、「広告批評」が「箭内道彦」を作ったと。(笑)
箭: そうそうそう、「広告批評」っていう事務所からデビューした、みたいな。(笑)で、何も考えずに代理店飛び出して、風とロックが、「さあ、これどういう会社になるんだろう」ってタイミングでも、「広告批評」が「どうするつもりなんですか?」って僕にインタビューしてくれて、「オレ、どうするつもりなのかなあ」って自分自身が誌面で向き合いながら、そのつど確認していったっていう連続なんですよね。
No.001 河尻亨一 “NO 広告批評, NO 風とロック.”
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河尻 亨一(かわじり こういち)
元・広告批評編集長。2000年「広告批評」に参加。これまで企画・取材を手がけたおもな特集に、「エコ・クリエイティブ」「歌のコトバ」「箭内道彦 風とロック&広告」「Web広告10年」「ワイデン+ケネディ」「FASHION COMMUNICATION」「テレビのこれから」「オバマの広告力」などがある。
広告批評ファイナルイベント「クリエイティブ・シンポシオン」をプロデュース。
2009年中に、幅広い視点から時代のコミュニケーションとコトバ(表現)を読み解く、新レビューサイトを立ち上げる予定。
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