No.001 河尻亨一(広告批評 編集長)

No.001 河尻亨一 “NO 広告批評, NO 風とロック.”

(4)ヤンキー・オタクメディア論

箭: まあ、このクリエイティブ・シンポシオンは面白かったね。いろんなプログラムがあって。

河: 3月12日に始まって計9日間。結局、3月31日までやってましたね。最後、秋山晶さんと岡康道さんと服部一成さん、3人でブランドってことで話してもらったんですけど、それもよかったですよ。秋山さんはキユーピーをなんで40年以上もやってこられたのかって服部さんが聞いたんですよ。そしたら、なんて言ったと思います? その答え。箭内さんもタワーレコードとかずっとやってるじゃないですか、それはなんでかってことなんですよ。

箭: なんですかねえ…? なんて言ったんですか。

河: 「ずっと困りながらやってた」って言ったんですよ。「困ってるだけだったから、時間がどれくらいたったかなんて考えたことない」って。

箭: へえー、僕も「風とロック」で秋山晶っていう号を作りたいくらい、秋山さんはオレ大好き。

河: 作りましょうよ。(笑)

箭: 秋山さんの息子だと思ってるからね。(笑)(台本をめくりつつ)あれ? これ読んどかないでいいの? 「クリエイティブ・シンポシオン 音楽合気道にご来場くださったみなさんへの『広告批評』からのお願い」っていうの。(笑)

河: あー、「広告批評」のウェブに載せてたメッセージですね。えー、みなさんイベントを盛り上げてくださってありがとうございました。で、全18プログラムの中に、箭内さんと斉藤和義さんの「音楽合気道」という回がありまして……。(紙を読む)「出演者の斉藤和義さんの写真・動画を撮られたお客様、ウェブ等での公開は何卒ご遠慮くださいますようお願いいたします」っていう広告批評からのお願いだったんですけどね。

箭: ほんとだよ! オレがマイクスタンドやった回ね。腕まっすぐ伸ばして。

河: あれ、よかったんですけどね。

箭: いや、でもルールはルールですから。「ルールはルール」なんて生まれて初めて言ってみたよ。そんなこと。(笑)

河: ご迷惑おかけしてすみませんでした。この場をお借りしてお詫びします。
でね、箭内さん、ちょっと話してみたいことがあるんですけど。

箭: はい。

河: それは広告全般についてなんですけど。広告がこれからどうなっていくかっていうテーマで。箭内さんさっき、風とグループも楽ではないという話をされてたんですけど、どうですか、今後のテレビコマーシャルっていうか、マス広告っていうのは。

箭: そうですねえ…。マス広告の時代は終わったとか、もっと広告は街へ出て行くべきだとか、ウェブを使ったバイラルコミュニケーション? そっちにワーッとみんな行くもんだっていう流れはヤなんですよ。でも、どうなるんですかね?

河: いや、それでね、ちょっと遠いところから考えるんですけど、僕、最近、提唱してる理論があって、それ「ヤンキー・オタクメディア論」って言うんですけどね。

箭: ヤンキー・オタクメディア論?

河: どういうことかと言うと、まず日本人の男子はすべからくヤンキーかオタクかのどっちかに分かれると思うんですよ。

箭: ほおー。

河: だけど、完璧なヤンキーとか完璧なオタクっていうのはいなくて、みんな混じり合ってるんですよ。例えば、箭内さんだったら、この格好からもわかるように、ヤンキー度80%みたいにね。(笑)ということは、オタク度は20%な感じかな、っていうふうに、その人が男としてどのあたりにいるかを示すシンプルな座標軸なんですけど。

箭: ひと言で言うと、これどういうことなんですか。ヤンキーであるオタクであるっていうのは。

河: 世間的なイメージに近いと思うんですけど、やっぱりヤンキーっていうのはイケイケですよね。あとハデとか、わかりやすいものが好きとか、モテそうとか。でも、結構礼儀正しい一面も持ってて、つきあいを大事にしたりね。一方、オタクっていうのは、アニメが好きとかそういうのもあるんですけど、もうちょっと広く捉えて、何か凝り性だったり、極めてくというか、頭良さげとか、リクツっぽいとかね。

箭: そっか。

河: で、この人はヤンキー度何%くらいかな? なんていうふうに考えると、これはこれで面白いんですけど、実は僕、そこからちょっと発展して、これがメディアにもかなり当てはまると思ってて、メディアもヤンキーメディアとオタクメディアにわけて考えると、その特性が見えやすくなると思うんですね。で、そのイメージで言うと、テレビっていうのは、ヤンキーメディアっていう気がするんです。で、ネットっていうのはいまのところオタク度の高いメディアだと思っていて、さっき箭内さんが言ったこととは全然違う角度からの話になっちゃうんですけど、今後はネットとかももうちょっとヤンキー化していったほうがいいかなって気がしてるんですね。そうすることによって、例えばヤンキーはイケイケだって言ったんですけど、それは一般の人たちを惹き付ける力を持ってるってことなんですよ。
一方、オタクのほうはもうちょっと幅狭く、いまも動画共有サイトとかにすごく凝ったマニアックな動画があげられたりしてるんですけど、だけど、多くの人に見てもらえるようなそういうものではないんですね。だから、もうちょっとメディアとしてヤンキー化をはかるというか、もうちょっとマス的に最適化したものになるといいんじゃないかなっていうのが、ヤンキーオタクメディア論の骨子なんです。

箭: なるほどね、わかる気がしますね。

河: でも、それは相対的なものだから、逆にテレビのほうは、さっき言った意味でもうちょっとオタク化していけば、面白くなるんじゃないかという気もしたりして。すごいざっくりした考えなんですけど。
でも、このざっくり座標軸から色々わかることがあって、アートでも映像でも音楽でもなんでもそうなんですけど、クリエイティブって、基本オタク的な行為だと思うんです。でも広告は例外的に、ヤンキー的な要素を濃く求められるクリエイティブなんじゃないかなって思ってて、それはたぶん、いっぱいの人に知らせる必要からそうなってるんじゃないかと思うんですね。だから、福島のネクラなフォーク青年だった箭内さんなんかは、広告というフィールドでひと旗揚げるために、テレビっていうメディアの特性に合わせて、自ら見た目をヤンキーに改造したんだと思うくらい……。(笑)それがクリエイティブ整形の真の意味じゃないかなと思ってるんですけどね。

箭: そっかあ。あとはあれですね。時代時代で、ヤンキーとオタクの比率で、もっともベストバランスっていうかね、求められるバランスが年によって違いますよね。今年はオタク度数高いほうがみんなお好みよとか、今年は時代もこうだし、どーんと九割ヤンキーで行っちゃいましょうみたいなね。

河: そうなんですよ。バランスが重要なんですよね。で、いまはネットのコミュニケーションというか広告やってる人って、やっぱり結構オタクっぽいと思うんですよね。だけど、その意味では伊藤直樹さんなんかは面白いと思ってて、彼なんかはインタラクティブ界における初のヤンキークリエイターなんです、僕に言わせれば。(笑)ああいう人がもっと出てくると、例のナントカとカントカの融合なんていうのももっと楽しくなりそうな気がしてるんですけどね。

箭: それはすごいよくわかるんですけど、デビューの場所がね、なくなるんですよ。「広告批評」がなくなって。伊藤直樹っていう人、オレはしゃべったことないけど、その名前を見かける場所、その人がヤンキーであることを教えてくれる場所を広告界は失ってしまったわけですよ。この4月で。

PROFILE

  • No.001

    河尻 亨一(かわじり こういち)

    元・広告批評編集長。2000年「広告批評」に参加。これまで企画・取材を手がけたおもな特集に、「エコ・クリエイティブ」「歌のコトバ」「箭内道彦 風とロック&広告」「Web広告10年」「ワイデン+ケネディ」「FASHION COMMUNICATION」「テレビのこれから」「オバマの広告力」などがある。
    広告批評ファイナルイベント「クリエイティブ・シンポシオン」をプロデュース。
    2009年中に、幅広い視点から時代のコミュニケーションとコトバ(表現)を読み解く、新レビューサイトを立ち上げる予定。