No.001 河尻亨一(広告批評 編集長)

No.001 河尻亨一 “NO 広告批評, NO 風とロック.”

(6)広告批評力が上がってる?

箭: この放送もそうですけど、シンポシオンや4月20日に出るラスト広告批評号も含めて、やっぱりこう、死んで花火をあげるじゃないけど、一回これでっかい警鐘を鳴らしてくれたと思うんですよ。

河: そうなんです。それが休刊キャンペーンの意味なんですよね。あんまりだれからも指摘されないんですけど。これ、一回しかできない大技なんですよ。(笑)

箭: そうそう、これがふつうにずっと続いてたら、いま広告ってどうなんだろうとか、広告ってこれからどうなっちゃうんだろうとか、「広告批評」って僕らにとってなんだったのか、これからオレらは「広告批評」ナシでどうやって生きて行けばいいのかってことを何にも考えないで、「広告批評」に甘えて生きてったと思うんだよね。

河: それはどうかわかんないけど。(笑)

箭: そりゃ本人はそうは言えないと思うけど。それはすごく意味がありましたね。

河: 自分の中では、この休刊もけっこう企画なんですよね。「雑誌」という意味では休刊はいいことじゃないですけど、「運動」という意味では、そのアクションを起こすことでみんなに注意をうながすことができるじゃないですか。

箭: それ頂いて、「風とロック」は運動だっていうふうに、これから言いますかね。運動神経悪いけどな、オレ。(笑)でも、確かにいま百年に一度の不況だっていうのが「うるせい」って思ってたんだけど、やっぱりキツい状態ですよね。やっぱり同人誌を維持するためには、会員から集まるお金とかだけじゃ足りないんです。何か母体っていうとあれだけど、例えば僕なんかだと、大きな広告の仕事が四つ動いてたとすれば、そこから得た利益を同人誌に注ぎ込むっていうのができるんだけど、僕、同人誌の比率が上がって来ちゃって、母体が弱体化して、いまオレも危機を感じてます、自分の中で。

河: このあいだ、日経トレンディネットの取材を受けて、それは雑誌の未来みたいな特集なんですよ。雑誌がどうやったら、ここで逆転できるかみたいな、アクロバティックな答えを要求されたんですけど、そのインタビュアーの人が「おすすめのいまいけてる雑誌ないんですかね?」って聞かれたから「月刊 風とロック」あげときましたよ。

箭: ありがとうございます。

河: でも、「もっともうかりそうなやつないんですかね?」って言われました。(笑)

箭・ヨシヒロ: あははははは。

河: やっぱり雑誌って、もうビジネス的には大成功しないんですね、みたいな感じに落ち着いちゃいましたけど。

箭: 僕が好きな言葉っていうのがいっぱいあって、「ドキドキ」とか「リアルタイム」とか「ハイリスクノーリターン」とかね。いろいろあるんだけど、意外と好きな言葉の七位か八位に入ってるのが「トントン」なんですよね。(笑)やっぱ「トントン」がいいなあと思いますよ。もうギリギリつぶれそうでつぶれないっていうので、突き進んでるのが一番カッコよくて……。今月、単月で見ると、今月とか先月とんとんじゃないんですよね。ま、うちもね、新しく入った社員が来てて、こういうの聞くと不安になると思うんですよね。大きい会社辞めたのに、なんか外から見たらハデそうな会社に入ったはいいが、「何これ?」みたいな。ラジオで酒飲んでグチってるよ、ウチの社長、みたいな。(笑)ただ、トントンでどうにかやってきたいと思うし、あと広告批評っていう運動は終わらないしね、「広告批評」にもらったものをやっぱり広告に僕らは注入し続けないといけないですよね。
いや今日は面白かった。やっぱりオレね、広告の話は好きですね。

河: 大丈夫ですかね、こんなマジメな話になっちゃって。

箭: 大丈夫ですよ。マジメはつまらなくて、不真面目が面白いってもんでもないし。

河: ナウマンがビミョーな笑顔見せてますけど。(笑)

箭: ナウマンはね……。この二週間浮かれてたんですよオレら。JFN30局ネットってことで。(笑)ところで、「広告批評」の編集部は4月20日で退居しないといけないんでしょ?

ヨシヒロ: 編集部は解散ってことなんですか。

河: 解散ですね。

箭: みんなどうするんですか。最後の一年ね、“おくりびと”やった編集長は、まあちょっとは顔売れたし(笑)、元広告批評編集長って言うと、なにか仕事はありそうよ。

河: いや、そんなことないですよ、仕事ほしいですよ。(笑)

箭: 下の連中はどうすんですか。彼らは手に職あるの?

河: ないです、基本。デザイナー以外。僕からしてないですよ。

箭: そういう手に職のない若者たちのこともちょっと励ましたいですね。

河: 風とロックとかで雇ってあげてくださいよ!(笑)

箭: うーん、いま多めに採っちゃって。(笑)不況が始まる前に採用しちゃったんですよね。採用のときまだオレのところまでっていうか末端まで不況の波が来てなかったから。

河: そうだ。不況の話が出たんでこれは言っておきたいんですけど、やっぱり世の中変わっていくときだと思うんですよね。広告のことも含めて、別次元を目指すにはいいタイミングだと思うんですけど。オバマじゃないけど。

箭: 「いま何時? チェンジ」ですよね。(笑)

河: そうなんですよ。(笑)さっきのヤンキー・オタクじゃないんですけど、ネットっていうのが、ちょっと無法地帯みたいな感じになっちゃってるじゃないですか。だから、そこがちゃんとカルチャーであるような土壌っていうか、閉ざされてないもっと気持ちいいコミュニケーションができる場所に変えていったほうがいいなと思うんですよね。結局、バーチャルな世界では、みんな匿名で好き放題書いたりしてるんですけど、一方リアルの世界では、息苦しいというか異様にギスギスしちゃってる。なんかバランス悪いと思うんですけど。

箭: うん、変えて行きたいですよ。オレもそれかな、いまやんなきゃって思ってるのは。

河: だからリアルのほうはもうちょっとゆとりのある空気になって、で、バーチャルのほうももっと人間的な場所になっていくような動きっていうか、ムーブメントがいると思うんです。そのためには広告ヤンキー力が必要だなと。ヘタすると、どんどん両極端になっていっちゃう気がしてコワいですね。ヤンキーって言ったらなんか悪いことするみたいなイメージですけど、ヤンキーって結構マジメじゃないですか。律儀だったり。

箭: あと、チャーミング。カワイイ。

河: そうなんです。箭内さん言うところの“ロック”ですよね。そういう人間的なところを含めてヤンキーって言ってるんですけど、そういうのを注入して、ヤンキーオタクのベストバランスを探すといいんじゃないかなっていうふうに思うんですけどね。

箭: あれー、どうしちゃったんですか。河尻さん。ちょっと成長したんじゃないの? この一年で。これは編集長力かな、広告批評力かな? 両方だな、これ。

河: 箭内さんにもこのあいだ言ったんですけど、広告批評力アップしてきてるんですよ、僕。ここにきて。(笑)

箭: 言ってたね。

河: 箭内さんのいまやってらっしゃるサントリーの「ほろよい」ね、いま飲んでるんですけど(笑)、このCMを褒めたじゃないですか。「褒めた」なんて失礼ですけど。

箭: いやいや、失礼じゃないっすよ。

河: それはね、まずディレクターとして成長してるんですよね。(笑)

ヨシヒロ: あはははは。

箭: そうそうそう。

河: 横移動がね。

箭: あのカメラがね、スーッと。ほろよい、ほろよいで横移動していくんですよ。……なんかまた一本柱が折れたような。(笑)

河: 今日は柱折ってってますね。

箭: いや、そこがいいとこですよ。(笑)河尻さんにいったん広告批評の運動体がストックされて、それがまたこっから放射されていく。いま、そこなんでしょうね。

河: その仕組みをいかに作るかだと思うんです。一応、食って行けるようにしないといけないですし。

箭: だから、オレちょっと気をつけてほしいのが、交通事故とか。(笑)いまそこにたまってるわけだから、広告批評の財産が。

河: そのわりには貧乏なんですけどね。(笑)だから、ここで呼びかけましょう。

箭: 僕はあのシンポシオンでほんとに強く言いました。お金を貯金するなと、クリエイターは。気持ち悪いぞ、お前らみたいな、ほんとに。(笑)これほんと言いたいですね。お金をほんと自分のためだけに……。使うんだったらまだいいけど、預金通帳に置いといてんのあれ。ほんとに気持ち悪いわ、広告の仕事ばっかりやって。それを無駄遣いすると、無駄遣いじゃなくなっていくんですよ。ハイリスクノーリターンが、すごいリターンになってくるのね、いつかね。

河: それができて真のヤンキーですよね。

箭: なってほしいですよね。

ヨシヒロ: 貯金してる人多いんですか。

箭: 多いっすよ、多いっすよ、多いっすよ、多いっすよー! 気持ち悪いっすよ。みんなが貯金を発表する法律を作ってほしい。(笑)
あと、全然関係ないんですけど、言っておきたいのは資生堂のunoの新しいCMが始まって、妻夫木君が空港にやって来るんですけど、あれは僕は作っておりません。(笑)これ言っておかないと、オレが作ったと思われたら、あれ作った人に失礼だし、あんなものオレも絶対作んないし、これ公共のメディアで一応言っときたかった。えー、資生堂のunoは僕はクビになりました。(笑)それによって会社もいま厳しい状況になってますね。

河: よかったじゃないですか。替わりに「ほろよい」を手にして。(笑)でも、あれほんと面白いと思いましたよ。若い人はあんまり外で飲まないというか、飲むこと自体が好きじゃないですか。

箭: そうなんですよね。

河: あのウェブ飲み会っていうのは、新しい飲み方の提案になってますよね。、回を追うに連れて、どんどんセリフも酔っぱらって行って。

箭: あははは、批評力アップしてますよねー。(笑)

河: ですよねー、だから、やっぱ休刊は残念ですよね。自分で言っちゃってますけど。(笑)

箭: いい話だ、いい話だ。休刊になる雑誌の編集長が「ザンネンです」って。

ヨシヒロ: いまオレうまくなってるのに、これからなのにって。(笑)

河: なので、仕事があったら全然やります。暇なんで。(笑)

箭: あとはやっぱり広告批評ってすごかったんだって、みんなで証明したいんで、最後の号をみんなで買おうよ。でも、いま売れても関係ないのか。(笑)

河: スタッフの給料等にはもう反映されないんですけど(笑)、とにかく多くの方に読んでいただきたいですね。記念買いじゃなくて。(笑)

箭: これはさ、安いもん。若い人はなけなしだと思うけど。最後の号はいくらですか?

河: 1260円ですね。いつもより2倍以上ボリュームあるんで。

箭: みんな好きなんだもん、「広告批評」。日曜日に40名くらいクリエイター集めたんだけど、「こんなにみんなスケジュールの都合つくんだ」みたいなね。ほんと気持ち悪かったよ。

河: あれは、かなり実現したくて、ちょっと早くから準備してたんで。イベント自体の準備はまたもやギリギリだったんですけど。(笑)

箭: でも、この番組でもね、ギャングスター・プランナーってことやったりして、広告批評に出て来るような人たちだけじゃないね、新しい広告の生まれ方っていうのを実践どんどんして、そこもね、河尻さんにもこれからも噛んでもらって。

河: それはいいですね、全然噛みます。地方にも参上します。(笑)

箭: JFM、北は青森から南は沖縄までカバーしてますからね。ところで時間は大丈夫?(ナウマンから指令)なんだよ、ウィニングランって。(笑)だから編集者は嫌いだよ。(笑)

河: 頭の中でできてるんでしょうね。できてますからね、インタビューをしてるときに、すでにイメージが。これは使えないなー、みたいな。(笑)

箭: はははは。ということでね、そろそろ番組もウィニングランに入ります。広告批評もいま、お棺にみんなで花を入れて、フタがしめられて、おくりびとが石でどんどんと釘打ったところですよ、いま。(笑)

河: あとは焼くだけです。(笑)

箭: 焼かれるのが4月20日。広告批評の最終号、30周年記念特別号が出ます。なので、みなさんも1260円のお香典を本屋さんに。(笑)

河: よろしくお願いします。でも、いいですねラジオ。今日呼んでいただいたんで、この一年で一応、オールメディア体験することができたんですけど。

箭: ラジオってヤンキー・オタク理論から言っても、もっとも絶妙なメディアだと思うんですよ。いま、みんながちょっとそのことに気づいてないんですね。ラジオって言葉に大きな先入観を持っていて、そしてラジオの受信機を持ってないだけなんですよ。世の中全体で言ったらもっとラジオが甦っていくといいなと思っていて、僕はその活動も続けていきたいんですよね。大金稼いだら、街で受信機配りたいと思ってるくらいで。

河: それと同時に紙というか雑誌ですね。何か新しいプレゼンテーションの仕方があれば、この状況もまた変わると思うんですけど。いまはとにかく“重い”イメージなんで。

箭: ほんとそうですよね、まったく新しいものとしてラジオや紙を提示して、若い人たちがそういうものに触れてくれるような活動をやっていきましょうよ、我々。

河: そうですね。

箭: お、なんかこれ、先週先々週に比べたら、そうとうこれ前向きだな、やっぱこれだよ、ラジオ風とロックは。

河: よかったよかった。

箭: よかったよオレ、昨日死ななくて。先週の放送が遺作だったらどうしようかなって。(笑)ということで、今週はこの4月で休刊になる、創刊30周年を迎えた雑誌「広告批評」編集長の河尻亨一さんをゲストにお迎えしました。“こういち”って読むんですね、これ。

河: そうなんです、だれも読めないんですけど。(笑)ありがとうございました。

箭: 風とロック箭内道彦でした。

(text:河尻亨一)

PROFILE

  • No.001

    河尻 亨一(かわじり こういち)

    元・広告批評編集長。2000年「広告批評」に参加。これまで企画・取材を手がけたおもな特集に、「エコ・クリエイティブ」「歌のコトバ」「箭内道彦 風とロック&広告」「Web広告10年」「ワイデン+ケネディ」「FASHION COMMUNICATION」「テレビのこれから」「オバマの広告力」などがある。
    広告批評ファイナルイベント「クリエイティブ・シンポシオン」をプロデュース。
    2009年中に、幅広い視点から時代のコミュニケーションとコトバ(表現)を読み解く、新レビューサイトを立ち上げる予定。