就活のハナシvol.10
注)これは昨年、どこぞに書いたモノの転載です。
これで最後です、長々と駄文を垂れ流し失礼いたしました。
最後ってことで、超ベタに感傷的になってますが、いじらずそのままUPします。
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金の貯まり具合。上京準備。
などなどを考えて、3ヵ月後。
1月に上京することにしました。
ひとり暮らし用の家具もほとんど無いし、
服なんか最小限でいいし、持ってくものは、
本とマンガとビデオとCD。
引越し自体はは楽勝ですけど、東京に行ったら色々買わなきゃ。
そうなると諸々込みで100万はかかるな。
部屋は何度か下見に行って、板橋区にある5万円のワンルームにしました。
超狭い。5畳くらい。1階。
けど鉄筋コンクリート。23区内。都営地下鉄走ってる。
これ以上安いと木造アパートになってしまって地震と音漏れが不安なので、
ここで手を打ちました。
金を稼ぐ手段つっても、とりあえずはフリーターみたいなことやんないといけないわけだし。
ギリギリかな。
何とか月12,3万稼いで、当座をしのぎきりたい。
僕パチンコ・パチスロは異常に下手で異常にギャンブル勘ないんで無理です。
嗚呼、大学まで出たくせに、何と計画性のない上京でしょうか。大丈夫でしょうかこいつ。
まあ何とかなる。どうにもなんなくなったらホームレスでもやるか。
その程度。大丈夫でしょうかこいつ。
誰が言ったか、あと3ヶ月。
自分で決めた目覚まし時計のアラーム時間が、迫っています。
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年明けて1月5日。上京することにしました。
3が日はおせちと雑煮を死ぬほど食ってから行こうという、
浅ましい魂胆です。
僕も静かにテンションが上がってきました。
僕に後はありません。
やるしかありません。
今のこの熱を失ったら、もうやりたいことありません。
他には何も持っていません。
何も持っていないと、不安ってないんですね。
守るべきものがあるから、不安になるんですね。
僕には守るべきものがなかった。
攻めて攻めて、攻め終わったときが死ぬとき。
そう思ってました。
カッコイイですねー…無頼派みたい。
自己破滅型とも言えますね。危険思想です。
年末、家の大掃除と同時に、僕の部屋の荷物整理が始まりました。
最小限の服と本とマンガとCDと。
あとなんか必要だっけ。
まあいっか。向こう行ってから考えよう。
父親が、黙って僕の荷物をダンボールに詰めています。
彼は昔から腰が悪いんですけど。
クソ重い雑誌のバックナンバーやらなんやらを、黙って運んでいます。
僕のほうは、一度も見ません。
これといった趣味を持ち合わせない父。
酒を全く飲めない父。
借金をしたことがない父。
七三分けの父。
メガネの父。
阪神が大好きな父。
休日はずっとゴロゴロしている父。
ギャンブルはしない父。
厳格な父。
道徳にうるさい父。
僕とあまり話をしなかった父。
僕から拒絶された父。
僕に期待を裏切られた父。
ハラが出てきていましたが、
僕の荷物を運ぶ背中は、小さかったなー…
こんなに小さかったっけ。
…ありきたりな発見だな。
お父さん。
今までごめんなさい。
そして、これからもごめんなさい。
言いませんけどね。ガキなんで。
1月5日。
先に荷物は送り飛ばしました。
6日に到着する安いヤツにしたので、
後から上京する僕のほうが早く着きます。
他の人の引越しトラックの隅っこを借りて運ぶんで。
安くて遅いです。
朝飯を食います。
テーブルには、フルーツが山盛りと、ソーセージと、
ヨーグルトとコーヒー。
朝が弱くて、フルーツとコーヒーしか口に入れない僕。
というかメシを見たくない僕。
それを知っている母。
これを知っているのは、世界中で、この女の人だけです。
当たり前ですけど。
その人と、今後一緒に暮らすことは、ありません。
メシを黙って食い、風呂に入り。
黙って着替えて、カンタンな荷物を持って、
リビングに行き。
「ほな、行くわ」
父は僕のほうを見ませんでした。
「頑張って来いよ」と、テレビを見ながら言いました。
玄関で靴をはき、振り返ると、母親が立ってました。
「ほんまに行くんか?」
「…行くわ」
「…握手して」
母親はなぜか握手を求めてきました。
なんで握手やねん。
…そう思いましたが、ドバドバに泣いている母は、
すごい力で、僕の手を、長い間握っていました。
「ほんまに行くんか?」
「…行くわ」
ありがとう。さようなら。みなさんお元気で。
さすがに気持ちがフワフワしてきました。
もうすぐ僕は、東京に行って、ここには帰ってこない。
帰るつもりはない。
24年。
長いのか、短いのか。
僕の人生の第1章が、終わるような…
ドラマのエンディングに訪れる、余韻のような…
フワフワした風景と、どうでもいい会話。
あ…ちょっと感傷的になってきたな。
そりゃそうか。24年も、この辺ウロウロしてたんだもんな。
もう、飽きた。この辺で、お開き。
もう、僕を目の前で引き止める人間は、いなくなりました。
引き止めてほしいんでしょうか。
引き止めてほしくない。
誰も僕のことを知らない、
僕も誰のことも知らない、
そんな土地へ、早く身を置いてみたい。
完全にゼロから、どこまで上がれるか。
マゾッホですね。
ひかり・東京行きの自由席。
早めに乗り込んで席を確保しました。
新大阪の駅のホーム。
3時間後に見える、東京駅のホーム。
窓から見える景色なんて、きっとほとんど変わらない。
変わって見えるんでしょうか。
自分が暮らす街として待つ東京は、自分の目に、どんな風に映るんでしょうか。
さようなら。みなさん、お元気で。
楽しかった。
さようなら。
~おしまい~
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どなたかのお役に立てれば幸いでございます。お目汚し失礼しました。
ここから先の仕事編、みたいなのは、あまりに生々しい『過去』なので、
あんまし上手に書けないと思いまして、まだ文章化したことはありません。
すいません。
では、通常更新に戻りますか。
(山本佳宏)