就活のハナシvol.4
注)これは昨年、どこぞに書いたモノの転載です。
表現内容などに問題があるかもしれませんが、いじらずそのまま掲載します。
リアルタイムで内容に反応していただいてありがたいですが、言わずもがな、10年以上前の話です。
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ダブルブッキング。
今やド素人でさえ使うようになった業界用語です。
社会人としてやってはいけないルール違反ですが、
違反する人は後を絶ちません。
みんな、自分の利益が第一だからです。
何となくとはいえ、金融系をメインに活動していた僕は、
非常にラッキィでした。
何度か言いましたが、採用活動を始めるのが、
全業種の中でも比較的遅めだからです。
都銀をはじめ、金融は採用人数が、やはりほかに比べて多い。
支店の数を見れば分かりますが、単純に数が必要です。
何でもかんでも、というわけではありませんが、
短期間で結構がっさりいきます。
それを含めて、リクルーター制度は、彼らにとって、
効率的に働いていたんじゃないかと思います。
それが、ほぼ時を同じくして、一斉に動き出します。
ダブルブッキングが起こり始めます。
1回や2回の面接を通過したところで、学生が、
「いやー、その日は都合悪いっすねー」とは、
なかなか言えません。
「あ、じゃあ、また電話しまーす」と言われたら、
そこで終わってしまうかも…
その不安がある限り、なかなか言えません。
「はい!大丈夫です!」
…言ってしまうわけです。
その時間、思いっきり他の面接が入っていても。
さて。
ダブルブッキングです。
どうしますか。
いやがおうにも、『どっちに行きたいのか/どっちを切るのか』
の判断を迫られます。
ルール違反なのは分かってます。
でも向こうだって、必要ないと思ったら、
どれだけ約束していてもバッサリ切ってくるわけです。
お互いさま。
そう思わないとやってられません。
胃がぶっ壊れてしまいます。
2社か、3社。
面接の約束をぶっちぎりました。
ゴメンなさい。
面接が進むにつれ、少し分かってきたことがあります。
あ、この人たち、能力を見てるわけじゃないんだなー…
質問や目の動き、仕草から見て…
ウマが合うかどうか。話が合うかどうか。
楽しく話せるかどうか。
一緒の職場でやっていけるかどうか。
そこしか見てない、とまでは言いませんけど、
数を採る企業として最優先させているのが、
それだなと気づきました。
こっちが合わないなコイツとは、と思う企業は、
向こうもそう思うらしく、途中で電話がならなくなります。
面白い兄ちゃんだったな、と思って帰れば、
ほぼ間違いなく、『次も会いたい』という電話がかかってきます。
そりゃそうだ。
今、僕がどこかの企業の採用担当だったとして、
何を重視するかと言われたら、
ハキハキしゃべれること。
素直であること。
熱意があること。
この程度です。能力はもっともっと優先順位が低い。
つーか学生の能力なんか正直どうでもいい。
ゼロか1か、その程度の差しかない。
大事なのは、
社会人になってからそれを100にしようとする熱意があるかどうか。
僕はそう思います。
4月アタマから本格的に始めた就職活動。
連休前になりました。
周りのツレは、ほぼ内々定が出て、活動を終えています。
僕はまだ出ていません。
あせる。
別に就職なんかどーでもいい、と思ってた僕も、あせる。
置いていかれた感がある。
毎日朝から晩まで走り回って心も体も、結構ヘロヘロ。
疲れた。
都銀には、毎年持ち回りで『幹事行』という役割が回ってきて、
一応、色んな協定や法令を遵守しようね、と旗を振る役目を
おおせつかります。
難しいですけど、どういう意味かというと、
『毎年、幹事行だけ就職協定をクソマジメに守らなきゃいけない』
ということです。
幹事行は、出遅れます。あせります。
いい人材を、他行に持っていかれるからです。
なので、解禁になったと同時に総力戦を一気にしかけてきます。
その年の幹事行(A銀行)は、僕の『まだ切れてない企業リスト』に入ってました。
ある日、A銀行に呼び出され、いつものようにビジネス街の喫茶店に。
うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!
壮観。
喫茶店丸ごと貸しきって、何十人というウチの大学出身行員と、
その何倍もの学生が、あちこちで面接しまくっています。
こいつら、今日全部決める気だな。
そう思いました。
この喫茶店で、多分、5人くらい話したな。
どんどん年次が上がって、オッサンになっていきます。
途中で帰っていいと言われ、肩を落として出て行く学生もいます。
(学生といっても同じ大学の同期なんだけど、
僕は大学にほとんど行ってないので顔が分かりまへん)
正直、気に入られているという実感がありました。
途中の40前くらいのおじさんも、
まだ次があるのに握手を求めてきて、
『キミと来年から仕事が是非したい』と言ってきたりして。
内容なんか、みんなが聞けば適当なもんです。
「新聞読んでる?」
「毎日は読んでないです」
「今、1ドル何円か知ってる?」
「今日新聞見てないんで分からないですけど、110円とかですかね」
「最近なんか本読んだ?」
「就職活動中、文字詰まってる文章読むとイライラするんで、
今、コクトー詩集持ち歩いて眺めてます」
「コクトーって誰?」
「フランスのイカれたオッサンですw僕も半分以上意味分かりませんww」
「www」
こんなもん。多分、為替知ってるかどうかすら、気になってない。
楽しく話して終わり。
あとで聞いた話ですが、喫茶店の個室には戦略会議室みたいなものがあったらしく、
僕の名前のところには、『未来のホープ』と書かれてグリグリに二重丸してあったそうです。
別に自慢じゃありません。そう聞いた、という話です。
多分、この喫茶店で1番年上のおじさんとの面接が終わり、
面接と面接の間、ぼくの相手をずっとしてくれていた、
入社2年目の人が、僕を外に連れ出しました。
A銀行のビルに入ります。
あ、最終だな。ここで決まるな。
俺、この銀行に入るんだ。
もう疲れたからここでいいや。
話も合うし。
みんな人が良さそうだから、
俺みたいな腹黒い人間が入ったら、
多分出世するだろうな。
控え室で、ぼんやり待つこと30分。
朝から始まった総力戦。
もう19時を回っています。
部屋に、2年目の世話係がまた入ってきました。
お。
そろそろか。
「ごめん。今日もう遅いから、帰ってもらっていいかな」
「…え?」
「また後日連絡するから。その時改めて」
「え?」
「今日はありがとう」
「……はい」
帰された。
帰された。
帰された。
切られた。
切られた。
切られた。
決まると思ってたのに。
決まると思ってたのに。
決まると思ってたのに。
もうどうやって家に帰ったのか分かりません。
自分勝手ですが、裏切られたような心境でした。
絶対今日内定もらってるヤツいるはず。
俺は帰された。
多分、俺よりいいヤツ見つけてそっちにしたんだ。
どれだけ進んでも、帰されたらゼロと一緒。
疲れた。もうイヤ。
泣きそうでした。
メンタルがちょこっとだけ限界を超えた瞬間でした。
スーツも脱がずに、リビングのソファで寝転んでいると、
電話が鳴りました。
B銀行の、少し前面接した、3年目の先輩からでした。
「何してんの?明日暇やったらあわへん?」
「はあ…分かりました」(←完全に抜け殻)
「何時がいい?何時でも合わせるで」
「僕も何時でも大丈夫ですけど」
「じゃあ、昼メシ食おうぜ一緒に。12時半○○!」
「はあ…分かりました」
「元気ないなー! じゃ、明日!」
明日…明日って何だ。
就職活動って何だ。
寝よう。
~続く~
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(山本佳宏)